A2ADに対抗すべく米軍は空軍(エア)と海軍(シー)が協調して(クロスドメイン)*5作戦によって、A2ADを打ち破るエアシーバトル構想を考えました。米軍はその後、エアシーバトル構想を通じた「クロスドメインシナジー」を重視するようになります。空軍と海軍だけでなく、陸、海、空、サイバー空間、宇宙といった各ドメインの作戦を相互に連携させて相乗効果を生み、最大の成果を得るという考え方です。効果を足し算ではなく、かけ算で考えるということです。

*5:空、海という戦域を「ドメイン」と呼ぶ

 しかし、今、米軍は「マルチドメインバトル構想」という新たなコンセプトへのシフトを進めています。マルチドメインバトルは、陸、海、空……のすべてのドメインにおいて一斉に作戦を展開するものです。敵はすべてのドメインで米軍に対応しなければならなくなります。米国はこの6月に実施した環太平洋合同演習(リムパック)でこのマルチドメインバトルをテストしていました。

 加えて、マルチドメインバトルでは、各ドメインで活動する部隊が一定程度の自律性をもって動きます。中国による弾道ミサイルの飽和攻撃を避けるため、米軍は部隊をある程度、分散させる必要あります。分散する部隊が連携するためには通信ネットワークを通じた指揮統制が必要になりますが、中国がこれの妨害・分断を図ることは間違いありません。よって、分散する部隊が、通信が切れても自律性をもって動けるようにすることが必要なのです。

 さらに、紛争が始まる前から、武力攻撃事態が始まった後までを視野に入れている点もマルチドメインバトルの特徴です。

 自衛隊と米軍との協力を想定するなら、マルチドメインバトル構想に合わせるほうがタイムリーですし、インターオペラビリティー(相互運用性)が高まります。

 またクロスドメインを目指すには、陸・海・空の3自衛隊が協調して一つのオペレーションを行えるよう統合されている必要があります。しかし、先ほどお話ししたように自衛隊の統合度合いはまだまだ弱い。各ドメインで活動するそれぞれの部隊が自律性をもって動くマルチドメインバトル構想の考えを取り入れるほうが今の自衛隊に適していると思います。

 さらにもう一つ、クロスドメイン構想に基づいて行動する米軍は、遠征軍に固有のパワープロジェクションを前提としています。米軍は緒戦において攻撃を避けるべく、いったん前線から後退し、その後A2ADを突破すべく作戦を展開する。これは、日本列島から退くことのできない自衛隊には適しません。

 自民党がいう「クロスドメイン」の詳細は分かりませんが、字句から見るに、エアシーバトル構想をイメージしているように受け取れます。米軍が進めるマルチドメインバトル構想と表現が異なるだけならよいのですが、構想自体が異なるのは好ましいことではありません。

輸送力を高めろ

これまで「統合」について伺いました。「機動」について、装備は十分でしょうか。

小谷:輸送力が全然足りません。船も航空機もです。佐世保の水陸機動団が専用の輸送艦を持っていないことは先ほどお話ししました。

海上自衛隊は「おおすみ」型の輸送艦を3隻保有しています。東日本大震災の時は、海外任務や修理のため、どれも利用することができませんでした。

小谷:そうした事態が起きないよう、ヘリ搭載型護衛艦「いずも」を改修して船体の側面に大きなハッチを付け、大型車両を積み込めるようにしました。しかし、いずもには対潜水艦戦というより重要な任務があります。民間のフェリーを借り上げて輸送艦として使うという話もありますが、有事の際に本当に動けるのか不明です。「多用途運用母艦」の導入についても検討がなされているようですが、機動力の強化という観点では考えられていないようです。

オスプレイ*6は役に立ちますか。

*6:米国製の輸送機。陸上自衛隊が水陸機動団の移動手段として使用する

小谷:用途によります。輸送力という意味ではヘリの方が適しています。オスプレイはヒトとモノは運べますが、大型車両や火砲を運ぶことができません。

CH-47J(チヌーク)などの輸送ヘリが必要になるわけですね。

小谷:そうです。ただし、これらのヘリの数をただ増やせばよいわけではありません。格納する場所の手当も必要です。また、ヘリを増やす分、オスプレイをどこまで減らせるのかを考える必要が出てくる。

 限られた輸送力をいかに効率的に使うかが大事になってきます。

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