この数年、年率30%前後上昇してきた国防予算は、国内総生産(GDP)の5%と危険水域に達しつつあり、さすがに17年から減少に転じた。大統領が12月にシリアを電撃訪問し、駐留ロシア軍の部分撤退を発表したのも、駐留の泥沼化を懸念する声を受け、出口戦略を示して国民を安心させる狙いがある。

 こうして、プーチン4期目は、地政学的野望が目立った3期目から一転して、内政重視となるかもしれない。しかし、教育、医療、年金重視なら日本など西側政治家と変わらない。プーチン大統領の真骨頂はやはり、米国に一泡吹かせる野心的な外交・安保政策にあり、これでは並みの政治家になってしまう。

 プーチン大統領が3月1日の年次教書演説で、核搭載型の無人潜水艦など核兵器開発を強化していることを唐突に強調したのは、選挙前に国民の愛国心に訴えるとともに、ロシアが無視されていることへの焦りや不満を見せ付けた。

北方領土の返還は期待薄

 次の6年は外交も閉塞感を強めよう。欧米の対ロ経済制裁が解除されることは考えられない。トランプ米大統領の登場で米ロ関係が正常化し、制裁も解除されるとの期待は裏切られた。ロシアの米大統領選介入が米議会を硬化させ、超党派で制裁強化法案を採択。トランプ大統領も署名せざるを得なかった。制裁解除の権限は議会に移っており、プーチン体制が続く限り制裁解除はありそうもない。

 欧州でもロシアによる選挙干渉への不満が強く、欧州連合(EU)の対ロ制裁も期間半年から1年に延長された。プーチン政権がウクライナ問題で譲歩するはずもなく、国際的孤立が続きそうだ。GDPで米国の8%にすぎないロシアが反米世界戦略を展開するのは容易ではない。

 プーチン政権は3期目でアジア太平洋を重視する「東方外交」を展開し、4期目も継続しよう。中国は最大の友好国だが、中ロの経済格差は今年10倍に達し、1人当たりGDPも中国が上回る見通し。もはや対等なパートナーとは言えず、中国外交に占めるロシアの地位は相対的に低下している。

 日ロ関係では、注目された16年12月のプーチン訪日で北方領土問題に進展がなく、その後も大統領は日米同盟を返還の障害と指摘するなど、後退した印象がある。しかし、大統領は安倍晋三首相に、3月の大統領選後に本格対話をする用意があると伝えたとの説もあり、日本側は大統領と首相の最後の任期中の平和条約締結を期待している。ただし、その場合でも返還するのは、1956年日ソ共同宣言に沿った歯舞、色丹の2島だけだ。

後継者選びも

 3月の大統領選を経て、後継者探しも始まりそうだ。ロシア憲法は大統領の連続3選を禁止しており、プーチン氏も憲法規定に沿って次の任期で退陣すると表明している。柔道名誉6段の大統領は健康に自信があるとはいえ、24年には72歳となり、ロシア男性の平均寿命(65歳)を上回る。

 この点で、米紙ニューヨーク・タイムズ(16年12月11日)は、「プーチン氏の勝利が確実な大統領選で、これから始まるのは24年に誰が後継者となり、プーチン後に何が起きるかを決める容赦のない闘争だ」「ロシアのエリート内の緊張と不安は隠せない」と伝えた。カーネギー財団モスクワセンターのコンスタンチン・ガーゼ研究員は同紙に対し、「プーチン氏は退陣しても、別荘に引きこもるのではなく、一定の政治的役割を維持しようとするだろう。後継者が治世に失敗するなら、2人が訴追され得ることを認識している」と指摘した。その場合、憲法を修正して安全保障評議会のような国権組織を創設、その長に就くことが考えられるという。

 政治評論家のオレグ・パブロフスキー氏は、「エリツィン元大統領も96年に再選を決めた直後から後継者探しが始まった」と述べ、「プーチンの取り巻きは、退陣後もプーチン体制が継続することを望んでいる。彼らはプーチンが彼らの利権を擁護してくれる人物を後継者に指名するよう求めるだろう」と予測した。「プーチンなきプーチン政治」が24年以降も続くとの見立てだ。

 後継者探しと並行して、先のないプーチン氏のレームダック化が進むことも考えられる。3月の大統領選は「プーチン時代の終わりの始まり」となるかもしれない。

名越健郎(なごし・けんろう)

拓殖大学教授。専門はロシア研究、メディア論。1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業後、時事通信入社。外信部、バンコク支局、モスクワ支局勤務。ワシントン支局長、モスクワ支局長、外信部長、編集局次長、仙台支社長などを経て退社。2012年から現職。主な著作に『独裁者プーチン』(文藝春秋、2012年)、『ジョークで読む国際政治』(新潮社、2008年)などがある