
2018年8月23日、関係筋の話としてかねて計画中であったサウジアラビア国営石油会社、サウジアラムコの内外株式市場への新規株式上場(IPO)が断念されたことを一部メディアが報道。内外メディアは一斉にこれに続いた。
翌日、サウジのファリハ・エネルギー大臣は、「状況が整い、適切と考える時期に、サウジ政府はIPOを実施すべく専念している」と否定。8月27日には英フィナンシャルタイムズが、アラムコ上場は延期されたものの、将来の上場準備として40年間の操業権益期間の設定や埋蔵資源の外部監査の受け入れなどを検討している、と報じた。
さらに8月28日にはサウジ政府関係筋の話として、アラムコ上場中止はサルマン国王の反対によるものだと一部メディアが報道。反対の理由は不明としながらも、国王の決定は最終的なもので覆ることはない、とした。
伝えられる内容は若干混乱しており、今回の決断がそもそもアラムコの上場延期なのか中止なのか、その理由は何かなど、現時点でははっきりしない点が多い。
サウジ・ビジョン2030の目玉プロジェクト
ここまでの流れを振り返ってみよう。サウジアラビアでは、サルマン国王の七男、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(当時・現皇太子)が中心となって、経済の脱石油依存を目的とする「サウジアラビア・ビジョン2030」(16年4月、閣僚会議承認)を策定。30年に向けた国内社会経済改革に取り組んでいる。
同ビジョンは、アラブ世界・イスラム世界の中心としての国家理念、石油立国から投資立国への変革を目標に、非石油部門の産業振興による若年者・女性の雇用促進、歳入・歳出の見直しによる財政再建等を重視している。数値目標を設定しているのが特徴で、非石油部門輸出の対GDP比率を現状16%から30年には50%に、民間部門経済の対GDP比率を約40%から約60%に、失業率を12%から7%に、労働人口に占める女性比率を22%から30%、にする、などの目標を掲げている。
実施体制を整備するため16年5月、大規模な内閣改造と省庁再編を実施。石油担当大臣はナイミ氏からファリハ氏に交代、石油鉱物資源省はエネルギー・産業省に変わった。また、同年6月には、ビジョンを具体化するため、20年を目途とする5カ年計画「国家変革計画」(National Transition Plan)が発表された。
一連の国家改革プログラムの中で、アラムコ上場は目玉プロジェクトとされ、改革にかかわる投資資金調達の手段と一般に認識されてきた。
ムハンマド副皇太子はビジョン発表時の記者会見で、「サウジの歳入の源泉を原油から投資に変え、30年には原油なしでも生き残る」と力説。そのための手段として、公共投資基金(PIF)を国家ファンド(SWF)に改組したうえで、「企業価値2兆ドルとされるサウジアラムコの株式5%未満の新規上場(IPO)を通じて、1000億ドル規模の資金を調達する」と発言した。
ただしビジョン2030本文には、アラムコについて「石油企業から複合的企業への変革」と「その変革計画の策定」が言及されているだけ。上場計画自体がビジョンに書き込まれているわけではない。しかし、サウジの最高実力者ムハンマド副皇太子の公式の発言である以上、史上最大の上場案件として、世界中の機関投資家など関係者は実現に期待を寄せた。
上場場所を巡っては、東京を含めて世界各地の証券取引所が誘致に名乗りを上げ、ロンドンとニューヨークが有力候補といわれた。ロンドン証券取引所は、アラムコ上場を想定して、わざわざ上場基準を緩めた「国営会社」という新たなカテゴリーを設けた。
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