フランスのマクロン大統領は最大の政治的効果を狙って、仏米首脳会談の直前に内燃機関自動車の販売禁止方針を打ち出した。その背景には自国の自動車産業と電源構成を冷静に見極めた深い戦略がある(写真:Sipa USA/amanaimages)
フランスのマクロン大統領は最大の政治的効果を狙って、仏米首脳会談の直前に内燃機関自動車の販売禁止方針を打ち出した。その背景には自国の自動車産業と電源構成を冷静に見極めた深い戦略がある(写真:Sipa USA/amanaimages)

 7月6日、フランスのユロ・エコロジー大臣(環境連帯移行大臣)は、2040年までに、二酸化炭素の排出削減のため、国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表した。

 具体的内容やそこに至る道筋など詳細は明らかにされていない。また、EV(電気自動車)の走行距離やバッテリー寿命など技術的課題、そして給電インフラや産業構造転換など社会経済的課題が現時点では解決されていないことから、実現は難しいとする見方もある。

 しかし、フランス政府の発表は、G7の先進国政府として初めての、内燃機関自動車の販売禁止方針の表明である(7月26日には英国も2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した)。そして、パリ協定離脱を宣言した米トランプ大統領が初めて出席するG20(7月上旬にドイツ・ハンブルグで開かれた20カ国・地域首脳会議、以下G20ハンブルグ会議)とフランス訪問の直前という絶妙のタイミングで、最大の政治的効果を狙って打ち出された、マクロン仏新大統領の決断であった。

 本稿では、このフランスの発表の狙いと背景を分析するとともに、今後の産油国、特に三大産油国の対応について検討してみたい。

パリ協定の性格

 2017年6月1日、トランプ大統領は、選挙公約に従って、米国のパリ協定からの脱退を発表した。ただ、実際の脱退は、発効3年後から通告可能で、通告の1年後に効力を有することから、将来の話になる。

 そのトランプ大統領のG20ハンブルグ会議とフランス訪問の直前のタイミングで、パリ協定のホスト国として、地球温暖化対策の積極的推進を表明し、リーダーシップを取ろうとしたマクロン大統領の政治的決断は「凄い」というほかない。

 特に近年、EU(欧州連合)内では、メルケル独首相の主導権が目立ち、フランスの影が薄くなっていただけに、マクロン大統領の国際的な発言力強化につながるものであった。環境立国は、EUとしての未来戦略でもある。

 パリ協定は、2015年11〜12月にパリで開催された、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で締結され、16年11月発効した国際条約である。しかし、パリ協定は、同床異夢の産物であり、内容が十分に整合的であるとは言い難い。

 パリ協定では、まず世界共通の長期削減目標として、産業革命前からの気温上昇を2度(可能ならば1.5度)未満に抑制するとし、先進国だけでなくすべての国が削減目標を自ら策定し、国内措置を履行、5年毎に目標を提出することとした。

 ところが、各国目標が達成されても、削減量が大きく不足し、全体目標は達成できないことから、各国は5年ごとに目標を見直し、これを強化していくこととされている。「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる一連の仕組みだ。

 COP21終了後、会議報告を聞いた時、環境NPO・環境省関係者は2度目標の合意を、産業界・経産省関係者は各国目標の履行を強調していた。筆者は同じ会議の報告とは思えなかったことを記憶している。当然、EU各国は、全体目標の実現を重視している。

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