協調減産の効果
2014年夏以降の原油価格低迷で石油収入激減に苦しむOPEC加盟産油国とロシア等11カ国の非加盟主要産油国は、原油価格の回復を目指して、2016年11月30日のOPEC総会で約120万BDの減産を決議。さらに12月10日のOPECと非加盟11か国の第1回合同会議で、ロシア等の11カ国が2017年上期の約60万BDの協調減産を合意した。
OPEC減産決議はともかくとして、非OPECの協調減産は難しいと見られていたこと、合計約180万BDの減産規模が予想より大きかったことから、11月まで、バレル当たり40ドル半ばの水準で推移していたニューヨーク原油先物市場のWTI価格は、12月平均で52.17ドルと、50ドル台を回復していた。
また、2017年1月から実際に開始された減産も、予想以上の速度と順守率で実施され、特に、サウジを中心にOPEC産油国は、2月時点で104%、4月時点で96%の減産を達成した。過去の減産決議に対するOPECの減産順守率は平均で約80%と言われているが、それに比べても、大きい順守率である。
非OPEC協調減産約60万BDのうち、30万BDの減産を担うロシアも、減産達成には時間を要すると言われていたが、4月時点で概ね達成したとみられる。
こうした状況は、原油価格回復に向けた産油各国の危機感の表れでもあり、1月平均で52.61ドル、2月平均で53.46ドルと、50ドル台前半で推移した。減産合意前の価格水準と比べると、5~10ドル程度は上昇していた。
シェールオイルの逆襲
しかし、想定外であったのは、シェールオイルの増産速度であった。シェールオイルは、生産性向上により生産コストを引き下げ、WTI先物価格が50ドルに達する頃から、増産を開始、2016年9月から半年で米国の原油生産は約60万~70万BDも増産された。
そのため、米国の原油在庫は高止まりし、原油生産の先行指標でもある米国の石油掘削リグの稼働は、733基(6月2日)と20週連続の増加中である。WTI先物価格は、3月平均で49.67ドル、4月平均で51.12ドルと50ドル前後の水準で、シェールオイルの増産は、協調減産の実効性を相殺する形で、価格上昇の上値を抑えることとなったのだ。
ファリハ議長のミス
その後、4月21日には、OPEC・非OPEC専門家会合が、次回OPEC総会に減産延長を提案する方針が合意された。
また、5月15日の北京での「一帯一路」会議の際、サウジのファリハ、ロシアのノバク両エネルギー相が会談し、協調減産の「9か月間延長」の方針が確認された。
ところがである。ここで、ファリハは読み違いをおかしてしまう。北京で記者団に、両国が「協調減産9か月延長」で合意したと発表してしまったのだ。
OPECと非加盟国のリーダー、共同議長国が合意したら、事実上、総会・合同会議の結論は決まりである。15日のWTI先物価格は、前日比1.01ドル上昇、その後も上昇傾向で推移、21日には50ドル台を回復した。しかし、同じカードは2度と使えない。この瞬間、総会でのさらに刺激的なカードが必要となった。この発言以前から、先物市場は、減産延長への期待感の高まりで強含みであったし、この局面では、「減産延長」に合意で十分であった。
クウェートのマルズーキ石油相やイランのザンガネ石油相も、この方針に賛同することで、上昇傾向を後押しした。しかも、総会前の事前調整の総仕上げとして、ファリハは、5月22日、サウジの石油大臣として約30年振りに、イラクのバグダッドを訪問し、「イスラム国」(IS)との戦争費用の必要から減産延長に難色を示していた、ルアイビ石油相を説得し、9カ月延長の同意を得た。
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