また、シェールオイル等従来の原油と同様に使用できる非在来型石油の商業化は、国際石油市場における中東地域の重要性を相対的に弱め、ベネズエラ・カナダを含めた米州大陸の重要性を高めたともいえる。現在、石油の確認埋蔵量は、非在来型石油である天然タール(オリノコタールとも呼ばれる超重質油)を有するベネズエラが第1位であり、同じくオイルサンドを有するカナダが第3位で、サウジアラビアは第2位である。言い換えれば、中東の地政学的重要性は低下したのかもしれない。

 シェール革命に代表される非在来型石油の登場は、石油資源の中東への集中を前提とする資源制約を後退させ、明らかに国際的なエネルギー安全保障の環境を改善したものと言える。

 オバマ政権の中東からの撤退政策の背景には、こうした発想があったものと推察できる。

石油市場の長期的変容

 原油価格が地政学リスクにあまり反応しなくなった長期的要因としては、産消相互依存関係の深化による紛争抑止効果向上と石油備蓄等の国際的な危機管理体制の整備を挙げたい。

 2度の石油危機から40年を経て、産油国と消費国との間のヒトとカネの交流は活発化し、貿易関係や投資関係の緊密化によって、相互依存関係は劇的に深化した。石油消費国が石油の安定供給を必要としているのと同様に、産油国も原油販路と消費国の安定的需要が必要であり、依然として、国家の財政収入や農産物等の食料・自動車等の工業製品等の輸入代金支払いを石油収入に依存している国が多い。産消双方の相互依存関係は緊密化し、石油供給の途絶に至るハードルは石油危機当時と比べはるかに高くなった。

 また、仮に、テロや事故等を含めて、一時的に石油供給が途絶する事態が起こったとしても慌てる必要はない。国際エネルギー機関(IEA)によれば、先進消費国には90日分以上の石油備蓄と危機に対する国際協調体制が整備されている。過去、IEAでは、湾岸戦争(1991年1月)、ハリケーンカトリーナ襲来(2005年9月)、リビア危機(2011年6月)の3回の供給削減事態の際、先進消費国による備蓄原油の放出等の「協調的緊急時対応措置」(CERM)を実施し、事態の鎮静化に貢献した実績がある。

 原油は、エネルギー密度の高い液体の炭化水素化合物で、長期の品質安定性と備蓄経済性を有する唯一の化石エネルギー資源である。わが国では、石油備蓄法に基づき、民間石油会社には供給量の70日分以上の石油備蓄義務があり、政府による備蓄と合わせて、約210日分の備蓄が保有されている。

 さらに、産油国側でも、ホルムズ海峡を迂回するパイプラインを敷設したり、消費国に石油の備蓄(在庫)を置いたりして、危機管理体制を強化している。ホルムズ海峡封鎖といった事態に備え、サウジはアラビア湾岸の原油を紅海側から出荷する「東西パイプライン」(延長約1200km、最大輸送能力450万BD)を、アラブ首長国連邦(UAE)はアブダビの原油をインド洋側のフジャイラから出荷するための「ハブシャン・フジャイラ石油パイプライン」(延長約370km、最大輸送能力180万BD)を敷設し、既に運転を開始している(図2参照)。

図2 ホルムズ海峡を迂回する原油パイプライン
図2 ホルムズ海峡を迂回する原油パイプライン
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