そもそも地政学リスクとは?

 ところで、「地政学リスク」という言葉が定着したのは、2002年の米国連邦準備制度理事会(FRB)声明において、2001年9月の9.11同時多発テロから2003年3月のイラク戦争に至る中東を巡る情勢の不透明性の高まりを表現してからであると言われている。

 先行きを予見しがたい、当時の時期の不透明感を上手く表現した言葉として、その後、グリーンスパンFRB議長(当時)をはじめとする金融関係者や石油関係者にも頻繁に使われるようになった。

 金融用語としての「リスク」は、投資に関する危険性、あるいは、不確実性、予見不能性といった使い方がなされることが多い。したがって、「地政学リスク」とは、まさに、地理的条件が国家や地域の政治・経済・軍事等に与える影響に関する研究である地政学に係わる不確実性・予見不能性を示す言葉である。

 しかし、「地政学」という研究分野自体、学問体系として、明確に確立されている訳ではない。20世紀前半における列強による植民地支配の進展とともに発達し、第二次世界大戦時にはナチス・ドイツの侵略の理論的背景となり、戦後は「禁断の学」とされたこともあった。ニクソン政権時代に大統領補佐官・国務長官であったキッシンジャー博士によって復活したといわれる。

 確かに、「地政学リスク」は、国際情勢に関する漠然とした不透明感あるいは予見不能性を表現するには、最適な言い回しではある。その反面、曖昧で良く分からない状況を分かったような気分にさせるトリッキーな用語でもあることも理解しておく必要があろう。

石油市場の中期的変容

表1 最近の原油需給
表1 最近の原油需給
注:*は現行減産合意が2017年通年で実施された場合。OPECのNGL生産は非OPEC生産として計上。

 原油価格が地政学リスクにあまり反応しなくなった理由について、私の仮説ではあるが、国際石油市場の変容・環境変化を中期と長期に分けて提示してみたい。

 まず、中期的要因として、シェール革命等による需給緩和の常態化と資源制約の後退による中東地域の重要性の低下が指摘できる。

 シェールオイルの増産によって、2014年以降、米国は世界最大の産油国となった。さらに、需要増加の減速と相まって、国際石油市場は需給緩和が常態化しつつある。2016年末に、OPECはシェア戦略を修正し、価格維持のために、ロシア等の非OPEC産油国も巻き込んで協調減産を開始したが、原油価格が50ドルに戻った途端、減産傾向にあったシェールオイルが復活し、米国の増産が再開された。

 このように国際石油市場の需給緩和が拡大する中では、中東地域における国際関係の多少の緊張や先行き不透明感の高まりだけでは、供給不安は起こらず、原油価格は十分に反応しないのであろう。

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