インスタントコーヒー最大手ネスレに挑む

 このほかにも、独自に開発した商品がある。味の素はベトナムで、「バーディー(Birdy)」というインスタントコーヒーを展開してきた。1杯分のスティックに、コーヒーとミルク、砂糖が入っていることから、このカテゴリーは「3 in 1」と呼ばれている。味の素はこの分野で、バーディーのブランドを生かし、新たに紅茶味と抹茶味の粉末飲料を発売した。カップに粉を入れてお湯を注ぐだけで、ミルクティーや抹茶ラテを簡単に作ることができる商品だ。

 ベトナムでは、世界食品最大手のネスレや国内メーカーが3 in 1のコーヒー市場で圧倒的な強さを誇っており、味の素は後発だ。そこで、ベトナム味の素は、2014年度から新たな需要を発掘しようと、20~30代の女性をターゲットに定め、自宅や職場でもカフェのように楽しめる商品を開発することにした。それが、バーディー3in1の紅茶味と抹茶味だった。

ベトナム味の素のミーティング風景。日本の「Cook Do」のようなメニュー用調味料も、現地のスタッフがチームで開発している

社会貢献を通じてブランド力の向上を狙う

 新たなカテゴリーへの進出を積極的に進める一方で、地域社会への貢献を通じて企業ブランドを浸透させる努力も重ねている。

 その一例が、環境に配慮した生産体制の構築だ。ホーチミン郊外にあるビエンホア工場では、水の浄化処理に力を注いでいる。うま味調味料「味の素」の原料であるグルタミン酸ナトリウムを作るための発酵工程には、大量の水が必要となる。生産工程から排出される水の一部を肥料として利用したり、工場内で浄化してからドンナイ川に流したりしている。

 また、工場内の自家発電では、植物由来のペレットを燃料として使用して、環境負荷の低減を図っている。こうした取り組みを基盤に現在、ベトナム味の素はISO50001の取得を目指している。

ホーチミンにあるビエンホア工場。うま味調味料「味の素」などを生産しており、製造工程で使った水は浄化処理してドンナイ川に流している。写真下は工場内にある浄化された水の噴水で、テレビコマーシャルにも使われた。写真はチュン・ホアン・ヴァン・クオック工場長(左)と小林正樹取締役

業績拡大と社会貢献の二兎を追う

 また、2012年度からは5カ年計画で学校給食制度の普及活動に携わっている。ベトナムでは共働き世帯が多く、外食する頻度が高い。そのため、子どもたちは栄養バランスを考えた食事の知識を十分に得ないままに成長してしまい、生活習慣病になるリスクが高まっている。

 そこで、ベトナム味の素は教育訓練省や国立栄養研究所、地域行政の協力を得て、学校に献立やレシピを載せたメニューブックを配布している。編集には、栄養に詳しい現地のスタッフが関わり、各地域で手に入りやすい食材や、マヨネーズや風味調味料など味の素の商品を使って調理できるメニューを掲載している。

 当初はホーチミンやハノイといった都市部からスタートしたが、今では国内約450校、30万人を対象にしており、2016年にはベトナム全土への拡大を目指している。味の素の西井孝明社長は「(ベトナム国内の)コーポレートブランド評価は明らかに上がっている」と手ごたえを得ている。

 味の素は2014年から、「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」という経営ビジョンを掲げるようになった。これは、社会に貢献する価値を、事業を通じて実現することを指す。本連載第1回「味の素、ガーナで挑むグローバル化への最終関門」で紹介したガーナにおける乳幼児向けの栄養改善事業もその一環だ。その他の国でも、地域に応じた課題を見出してASVにつながる活動を広げている。

 真の世界企業になるためには、持続的に業績を拡大するだけではなく、社会課題の解決に積極的に関わっていくことも欠かせない。味の素はベトナムで、まさにその二兎を追い始めている。