日経ビジネス2016年2月29日号特集では「シリーズ 真・世界企業への焦燥」の第1弾として、2020年までにグローバルトップ10入りを目指す食品メーカー、味の素の改革を追った。特集連動連載の第2回目は、海外事業の最重点国であるタイでの取材を元に、海外事業で直面している課題をレポートする。そこには、かつて圧倒的な強さを誇った販売網や人材育成のあり方が、さらなる成長を目指す際の足かせとなりかねない姿が浮かび上がってくる。味の素は、「成功の呪縛」を断つことができるか。

 東京が記録的な大雪に見舞われた1月中旬、タイのバンコクは抜けるような青空が広っていた。

 バンコクで最大級の青空市場「クロントゥーイマーケット」には、熟れた果物や野菜が所狭しと並んでいた。ある食品雑貨店には、500g入りのうま味調味料「味の素」が山積みになっている。「この量なら1日で売り切れるよ」と店番をしていた笑顔で女性が話す。

 市場をさらに奥まで進むと、市場で働く人向けの屋台があった。大きな釜でスープを煮込んでいた女性に「味の素を使っている?」と声をかけると、調味料の入ったボトルを指差して、「1日2袋分の『味の素』を使っている。欠かせない調味料だ」と答えた。

バンコクのクロントゥーイマーケットでは、いたるところで山積みの「味の素」が売られている。1日で売り切れるほど、身近な調味料だ(写真:浮ヶ谷 泰、以下同)
市場で働く人向けの屋台。「味の素」はスープの必需品だ

 タイでは、家庭も、個人が経営する外食店も、青空市場で食材や調味料を購入するのが一般的だ。「味の素」もその代表的な商品の1つである。

 味の素がタイに現地法人を構えたのは1960年で、50年以上の歴史がある。現地法人の設立を契機に現地スタッフが小売店を直接訪問して、商品の現物を現金で販売するという「三現主義」で販路を築いた。