翻って経産省。日本の自動車メーカーが世界と戦っていくうえで、どんな技術を目玉に据えればいいか――。いまから4年ほど前に選んだのは、日本勢が技術開発で先行していた燃料電池車(FCV)だった。

 FCVは水素と酸素を反応させて電気をつくる燃料電池を搭載したクルマ。エンジン車と違って排ガスはゼロだ。水素の生成技術さえ向上すれば、2015年の排ガス不正問題発覚後にドイツ勢が推し進めることになる電気自動車(EV)と比べても、発電所でつくる電気に頼らない点で圧倒的にエコ。まさに「究極のエコカー」(トヨタの内山田竹志会長)と呼ぶにふさわしいクルマだ。

 経産省は2013年12月に「水素・燃料電池戦略協議会」を立ち上げ、水素ステーションなどインフラ側も巻き込んだ推進体制を整えた。その後、トヨタが2014年末にFCV「ミライ」の市販を開始。2016年3月にはホンダも同「クラリティ・フューエルセル」のリース販売を始めた。だが、2016年末までの国内販売台数はトヨタで1400台弱。ホンダも104台にとどまる。

FCV推進、経産省に焦り

 「福島の事故で原子力に頼れなくなり、(日本における)水素社会の実現はエネルギー安全保障という国家レベルの問題になった」(トヨタ役員OB)

 「2020年の東京五輪・パラリンピックのタイミングで、新しい技術を打ち出したかった」(自動車産業に詳しい自民党議員)

 関係者は当時をこう振り返るが、これは世界の自動車業界の文脈とはかけ離れた、日本の国内事情にすぎない。「水素社会のコンセプト自体は間違っていないが、あくまで数十年後を見据えたもの。意識が高くても、実現を急ぎすぎるとガラパゴスになる」。ある日系自動車メーカーの役員はこう語る。

 JXエネルギーや岩谷産業といった水素インフラの整備を担う企業も巻き込むところまでは、FCV戦略は経産省式の「官民連携」だったといえるだろう。だが自動車メーカーにとっての主戦場がグローバルに広がるなか、国内事情に基づいた産業振興策では限界があった。もがき続ける日本流の官民連携はどこへ向かうのか。

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