「今日は自由に喋らせていただきます」。安倍晋三首相がトランプ米大統領との首脳会談に飛び立つ直前の2月中旬、経済産業省11階にある大臣室隣りの応接に現れた世耕弘成・経済産業相は、事前に送っていた質問状や想定問答など一切のペーパーを持たないまま、そう言った。

 政権中枢に経産省のOBや出向者が根を張り、日露交渉から働き方改革まで経産省の活躍の舞台は広がった。日本を「統べる」存在となった経産省のトップにこの日、聞きたかったのは、経産省の一丁目一番地と言える産業政策についてだ。

 かつて隆盛を誇った日本の基幹産業が日一日と衰退の一途を辿っている。家電事業の多くは既に中国勢に買われ、半導体や液晶などエレクトロニクス産業にも暗雲が立ち込める。国も守りきることができない。シャープの本体出資を巡り、経産省傘下の産業革新機構が台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と激しいつばぜり合いを演じた末に負けが確定的になったのは、ちょうど1年前の2月末のことだった。

 旧来型の産業が崩壊へと向かう一方、経産省は次世代産業に一縷の望みをかけ、未来への戦略を「新産業構造ビジョン」に集約している。

 「痛みを伴う転換か安定を求めたジリ貧か、日本の未来をいま選択」――。2016年4月に公表した新産業構造ビジョンの中間整理で、経産省はそんなキャッチコピーを掲げた。「『第4次産業革命』とも呼ぶべきIoT、ビッグデータ、ロボット、AI(人工知能)等による技術革新を的確に捉え、大胆に経済社会システムを変革することこそが、我が国が新たな成長フェーズに移行するための鍵となる」。そう銘打ち、今年4月にも工程表など具体策を盛り込んだ最終報告を公表する予定だ。

 ただし、国が旗を振れど民間がついてこなければ、経産官僚の努力は水泡に帰す。第4次産業革命への思い入れが強い世耕経産相は、どんな策を描いているのだろうか。

世耕 弘成(せこう・ひろしげ)
1962年大阪府生まれ。86年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、日本電信電話(NTT)に入社。報道担当課長などを経て98年の参院和歌山選挙区補選で参院議員に初当選、第2次安倍内閣で官房副長官に。ネット選挙の解禁などインターネット分野の政策に精通。ロシアとのパイプも太い。4期目の2016年、経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣に就任、現職。(写真=北山 宏一、以下同)

第4次産業革命に向けてのビジョン作りが進んでいます。経産省として、具体的にどう関与していくつもりでしょうか。

世耕経産相(以下、世耕):第4次産業革命は、IoTや自動運転、AIなど、いろいろなことが言われていますが、まずはそれぞれに民間主導でしっかりと取り組んでいただきたい。ただ、第4次産業革命でチャレンジするテーマというのは、はっきり言って個々の会社だけでは手に余る面があると思っています。

 もちろん民間が主役なのですが、我々が、例えば実験の場を提供するとか、あるいは、自動運転が典型的ですが、規制緩和をして民間がやりやすい環境を整えていくことが必要。技術の方向性も、民間と対話をしながらということになりますが、やはり国全体として、これはこっちの方向でいった方がいいというコーディネートもしていく。

 だから、昔の「ザ・産業政策」のような、「こっちに行きなさい」「ここの会社とここの会社は合併しなさい」という感じでもないし、一時期、経産省が陥っていたように、「いや、あくまでも民間が主役ですから、国は一切関与してはいけないんです」ということでもないんですね。それらの中間的なやり方で進めていくというのが、第4次産業革命における経産省の在り方なのかなと思っています。

第4次産業革命を構成するキーワードはいろいろありますが、中でも重要視しているものは何でしょうか?

世耕:自動運転というのは非常に重要ですね。私自身、サラリーマンだった頃からずっとやってきたITの世界で、やはりスマートフォンの反省というものがあります。

 例えば、アップルの「iPhone」一つとっても、レンズからディスプレー、中の部品に至るまで、日本製がかなりの割合を占めているにもかかわらず、頭脳の部分もプラットフォームを活用したビジネスも米国に押さえられている。組み立ては台湾や中国で行われていて、日本は部品受注だけの国になっちゃっているんですね。

 私は、これと同じことが自動運転で起きたら大変なことになると思っています。日本は素晴らしい自動車を、エンジンを作っているんだけれども、自動運転で頭脳の部分やそれを使ったビジネスを海外勢に押さえられたら、日本は大変なことになる。そういう危機感があります。