新法はまず、エアビーのようなホストとゲストを仲介する事業者に対して、観光庁長官への登録を義務付けている。さらに、「信義・誠実に義務を処理」「不当な勧誘等の防止」といった適正な遂行のための措置も義務付け、守られない場合は立ち入り検査や登録の取り消しといった行政処分が課せられることになる。

 適正な遂行のための措置をどう読み解くのかにもよるが、エアビーは数万件ある違法物件の多くを削除せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。そうなれば、エアビーは日本市場から撤退を余儀なくされるかもしれない。法案はそうした含みを残した。

 表向きは「民泊解禁」の顔をしながら、実態は「民泊後退」、もしくはエアビーの締め出しを迫る新法。なぜ、こういう帰結になろうとしているのか。理由は明白。ホームシェアリングという新たな市場に怯えるホテル・旅館という旧市場。そこと蜜月にある観光庁が法案作成の主体だからである。

シェアリングエコノミーの関連省庁と関係図。民泊は観光庁と厚生労働省の主導で新法制定が進む

 民泊の利用が進むいずれの海外の国・都市も、ホームシェアリングという新市場をいかに健全に育てるか、を主眼に制度を整えてきた。ところが日本では、旧市場をいかに守るか、という議論が先行している。

 実は、国土交通省傘下の観光庁だけではなく、衛生面で監督する厚生労働省もホテル・旅館業界と蜜月。観光庁は厚労省と密接に連携しながら法案準備を進め、前提となる委員会・検討会などでは、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)などの業界団体が徹底抗戦を仕掛けていた。

 新勢力に怯えるホテル・旅館業界の顔色をうかがいながら新法を作れば、規制・後退色の強いものとなるのは自明。結果、新市場の勢力からすれば、極めて難解で利用しにくい制度となってしまいそうなのだ。

 こうなってしまった遠因として、もう一つ、「経産省の不在」も挙げられる。エアビー関係者は言う。

 「当初は新産業の振興を担う経産省に大きな期待を寄せていたが、結局は何もしてくれない。もはや、経産省に行くことはほとんどなく、もっぱら観光庁や厚労省と付き合っている」

経産省不在の政策議論

 経産省は、シェアリングエコノミー協会という社団法人を監督している。協会には、シェアリングエコノミーに関連する国内ベンチャーのほか、エアビー日本法人や、ライドシェア世界最大手、米ウーバーテクノロジーズの日本法人、ウーバージャパンも名を連ねる。

 だが、新産業の監督官庁である経産省は、民泊新法にほとんどかかわることができずにいる。

 やったことと言えば、シェアリングエコノミー協会と連携する形で、「シェアリングエコノミー促進室」の設置に手を貸したことくらい。促進室は、内閣官房傘下のIT総合戦略室内に設置され、その役割を「情報提供・相談窓口機能のほか、自主的ルールの普及・促進、関係府省等との連絡調整、ベストプラクティスの紹介、その他のシェアリングエコノミーの促進に関する取組を推進」としている。

 要するに、シェアリングエコノミーに関連する事業者や個人向けの「相談窓口」。民泊新法に関する委員会や検討会は、観光庁と厚労省の主導で進められ、本丸の政策議論について経産省は蚊帳の外だった。

 なぜ、経産省は新産業の創生を前に、すくむのか。