というのは、菅原氏は今の方が経産官僚が活躍できる舞台が広がっていると考えているからだ。

 「僕らが経産省に入った時と今とでは官僚に期待されているものは違っていると思います。僕らが最初から日本を背負えという中で入ったのは確か。でも実際は、なんやかんやと仕事のかなりの部分は通商産業省(現経産省)の貿易摩擦の対応に費やさざるをえなかった。でも今は日本をどうするんだということの方がミッションとしては圧倒的に大きくなっている。日本全体をどうするか自由に考えられるポジションにいるんです」

経産省の拡大は時代の要請

 菅原氏が言うところの「ミッションの拡大」について、もう一人の大物次官は「様々な政策に経済が関わるようになった結果、起こるべくして起きている」と分析する。民主党政権にまたがる2008~2010年に事務次官に就き、現在は中小企業の育成を手がける東京中小企業投資育成(東京都渋谷区)で社長を務める望月晴文氏だ。

「多様化する中で経産官僚の仕事は難しくなった」と指摘する望月元事務次官(撮影:的野 弘路)
「多様化する中で経産官僚の仕事は難しくなった」と指摘する望月元事務次官(撮影:的野 弘路)

 「昔の高度成長期を牽引した『ノートリアス・ミティ(悪名高き経産省の意)』の頃とは大きく変わり、今は全ての事象が経済に深く関わる時代になった。例えば防衛。インターネットは軍事技術としても使われ、国の安全保障から企業活動まで考える必要がある。経産省が他省庁と調整しないといけない話は必然的かつ乗数的に拡大している」

 望月氏はこうした時代の変化は、1990年代中頃に始まった橋本内閣の行政改革をきっかけに顕在化したと見ている。さらに民主党政権が掲げ、今の安倍政権でも引き継がれている「政治主導」の要素も加わった。

 「橋本行革までの通産省は、経済が深く様々な制度に関わってくるという環境変化が起きていたのにも関わらず、縦割りの中でもがいていた。それがもっと自由に産業政策をやっていいんだよという風になった。政治主導も結果として縦割りを壊す効果を生んだ」

 「グローバル化の意味も変わった。かつては海外の巨人にいかに挑み、世界の覇権を握るかという分かりやすい構図で、経産省は運動部の応援団長であればよかったが、今は違う。世界の競争環境も大きく変化しています」

 「そのように多様化する中で、経産官僚が果たすべき責務は重くなり、かつ難しくなっています。だから後輩たちには僕たちよりも賢くなってほしいし、賢くならないと対応できない。賢いというのはもちろん勉強ができるという意味ではなく、自分の軸、自分の原理を確かなものにして、仲間と共有してもらいたい。そういう思いは強く持っています」

次ページ あえて「出口」を作らない