早稲田大学ビジネススクール 入山章栄准教授

「ソニーらしさ」こそ思考停止ワードだ

 ソニーは14年3月期から2期連続で最終赤字を記録するなど、「平井改革」は即効性があったわけではない。OBなど外部の批判が続いていた当時から、「平井改革の方向性は間違っていない」と主張していたのが早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授だ。復活を遂げた今、入山氏は「経営者づくりの仕組みを整えるべき」と説く。

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授(写真:竹井俊晴)
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授(写真:竹井俊晴)

 ソニー社員と話をすると「ソニーらしさ」という言葉を口にする人が多い。それはどういう意味かと聞いてみると、定義はみんなバラバラです。外部からすると、ソニーがどんな会社なのかということに納得感が得にくいと言えます。

 ソニーはゲームや金融、音楽など様々な事業で構成され、もはやエレキだけの会社ではありません。でも同社OBに話を聞くと、その多くが「ソニーはエレキの会社だ」と定義します。だからOBからは平井体制に対する批判が出たわけです。ソニーの経営者は「我々は何の会社なのか」という「納得感」を示す必要があります。関係者の中で「俺のソニー論」が多すぎますからね。

 OBからは「エレキ出身でないトップは認めない」という声もあります。ただ、そもそもエレキ事業に精通しなくても経営はできます。日本では「技術のことが分かっていないと経営ができない」という風潮がありますが、「技術だけ分かっているが経営は分からない」方が最悪の経営者でしょう。

平井社長はビジョンを示し続けた

 確かに平井社長は音楽やゲームなどエンタメ事業の出身です。ただ、ソニーの若手を中心に話を聞くと「社長が現場に現れる」と聞きます。経営陣が現場のアイデアに興味を持ち、社員同士の横のつながりが加速し、新たなものが生み出される。経営学でいう「知の探索」の世界が実践できています。平井社長の就任以降、そうした動きが出ており、改革の方向性は間違っていないと感じていました。

 グローバル企業のトップに求められるのは長期のビジョンを示すことです。これは甘っちょろい精神論ではありません。数年先ではなく、20年、30年後を見通して方針を示す。例えば米化学大手のデュポンは100年先の未来を見据えて経営しています。

 今は事業環境が絶え間なく変化する時代です。経営者が一番すべきでないのは「正確な分析」です。分析してもすぐに世界は変わりますから、現状を詳細に把握することの意味はなくなりつつあります。

 そういう時代だからこそ、グローバル企業のトップには従業員の多くを納得させるビジョンを示すことが求められています。将来の見通しが不確定な状況では、従業員を納得させ、会社全体を巻き込んでいかないと知の探索が進まなくなるからです。平井社長はソニーを「感動会社」と定義しました。あれだけ幅広い事業を抱えるソニーで納得感の持てる横串を通すのに「感動」以外の言葉は難しい。多くの日本の経営者が示せていない「ビジョン」を、平井社長は示し続けたわけです。

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