ホームレスの人たちに町の美化の仕事を与え、少しでも自立してもらう。行政が前面に出るのではなく、町づくり合同会社を作ってそこに委託をしていく。釜ヶ崎の労働者の人たちは、働けるだけ働いて、できるだけ行政の世話にはなりたくないというプライドを持った人たちも少なくありません。まずは、仕事がないのが問題で、高齢になった労働者でもできる仕事を作る事が重要です。現場から上がって来たアイデアを実現するために、予算を付ける。当然、従来の予算が削られることになりかねず役所の中には抵抗が生まれます。それを市長のリーダーシップで説き伏せていくわけです。

覚せい剤の売人は姿を消した

釜ヶ崎では過去に何度も労働者の暴動が起きています。警察はどう動いたのでしょうか。

鈴木 おそらく、改革が始まるまでの警察の姿勢は、釜ヶ崎から外に問題を出さないという封じ込め作戦でした。ですから当然、釜ヶ崎の中は荒れ放題になる。この地域を再生させるには警察の協力が不可欠です。大阪維新は幸い、市長と府知事の両方を押さえていましたので、松井一郎知事にお願いして県警本部長に掛け合ってもらいました。警察は一気に変わりましたね。覚せい剤の売人は姿を消し、ゴミの不法投棄をする人間は片っ端から警察が連行してくれました。

釜ヶ崎の問題は「経済学」からみると良く分かる

鈴木先生は経済学者ですが、すごい行動力ですね。本も社会学者の著作のような印象です。

鈴木 実は、釜ヶ崎の問題は経済学からみると良く分かる話だともいえます。こうした問題解決には経済学は重要なのです。日本では必要な改革についての議論は繰り返し行われ、だいたい何をやるべきかは分かっているわけです。問題は行動するかどうか。今回、3年8カ月の記録を詳細に書いたのは、改革の実務のノウハウをきちんと蓄積していくことが重要だと思ったからです。全国各地で同じような改革を行おうとする首長さんやそのブレーンたちの参考になるようにと思って、細かい点まで書きました。もっとも役所の報告書のような形では面白くないので、ちょっと小説仕立てのような感じで書いていますので、読みやすいと思います。

ところで鈴木先生は改革派の学者として有名な八代尚宏先生と八田達夫先生のお二人が恩師なのですね。

鈴木 上智大学で八代ゼミ、大阪大学大学院で八田ゼミでした。改革志向がDNAとして刷り込まれていますので、改革派以外になりようがありませんね。

大阪に比べ、東京では敵か味方かがわかりにくい

小池百合子さんが都知事になって東京都の特別顧問もお引き受けになりました。

鈴木 ええ。安倍晋三首相が旗を振る国家戦略特区に小池知事が乗り、担当の内閣府と東京都で共同事務局を作り、都庁内に設置しました。その事務局長というのも仰せつかっています。

東京都は大阪市と比べ物にならない巨大な官僚組織ですが、改革の旗を振って動きそうですか。

鈴木 驚くほどハイハイとなんでも言うことを聞いてくれますが、実際には動かない面従腹背になるのではと懸念しています。大阪市の場合は、顔に「抵抗勢力」と書いてあるような幹部がいて、敵味方がはっきりしていました。敵だと分かれば、とことん説得して味方に付けたり、ダメなら首長の政治力で人事異動したりという事ができますが、東京都では今のところ、誰が改革に協力的で誰が抵抗勢力なのか見えません。官僚としては一枚も二枚も上手ということでしょう。