日本の「労働政策」の吹きだまりとも言えるのが大阪・西成区のあいりん地区(釜ヶ崎)である。高度経済成長を支える労働力を提供した日雇い労働者の高齢化が進み、いまやこの地区の2.5人に1人が生活保護を受けているという。そこに切り込んだのが橋下徹市長(当時)。「西成特区構想」をぶち上げ、改革の象徴として日本の最貧困地域の再生に手を付けた。ひょんな事からその最前線に立った鈴木亘・学習院大学経済学部教授に聞いた。
大阪市西成区のあいりん地区(釜ヶ崎)で、無料の夕食の配給に並ぶ労働者の人たち。(写真:AP/アフロ)

3年8カ月間、「西成特区構想」に取り組んだ記録

鈴木先生は『年金は本当にもらえるのか?』(ちくま新書)など社会保障関連の話題書をいくつも書かれていますが、今度は『経済学者 日本の最貧困地域に挑む ~あいりん改革 3年8カ月の全記録』という興味深い本を上梓されました。

鈴木亘(すずき・わたる)氏
学習院大学経済学部教授
1970年兵庫県生まれ。1994年上智大学経済学部卒業、日本銀行入行。考査局経営分析グループなどで勤務。1998年日本銀行を退職し、大阪大学大学院博士課程入学。1999年経済学修士(飛び級)、2000年同大学社会経済研究所助手、2001年日本経済研究センター研究員、2001年経済学博士。大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授、東京学芸大学教育学部助教授、2008年学習院大学経済学部准教授などを経て2009年同大学教授(現職)。2012年3月から大阪市特別顧問。2016年9月から東京都特別顧問。著書に『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社)、『社会保障の「不都合な真実」』(日本経済新聞出版社)、『成長産業としての医療と介護』(八代尚宏氏との共編、日本経済新聞出版社)など。

鈴木 2012年の3月から2015年11月までの3年8カ月の間、当時の橋下徹・大阪市長の下で進められた「西成特区構想」に、私自身が取り組んだ記録です。

 大阪市西成区にある「あいりん地区」、地元の人たちは釜ヶ崎と言いますが、そこは日雇い労働者の町で日本の最貧困地域です。1970年の大阪万国博覧会などに向けた建設需要が旺盛だった頃に労働力の一大供給拠点となった場所ですが、労働者の高齢化も進み、バブル崩壊後は景気悪化にさらされていました。この地区には2万人が住んでいますが、実際には2万5000人ぐらいと言われ、そのうち1万人が生活保護で暮らしています。何と2.5人に1人が生活保護です。

 改革が始まる前は、猛烈に荒れており、そこらへんで堂々と覚せい剤を売っている売人がいたり、不法投棄ゴミが散乱していたりと、それはすさんだ町でした。ゴミと酒と立小便の異臭が立ち込めていたのです。ホームレスだけでなく、部落差別問題や在日問題などがないまぜになった場所で、それまでの首長や役所は手が付けられない場所になっていました。橋下市長はその象徴のような場所、橋下流に言えば「センターピン」を全力で解決するという姿勢を打ち出したわけです。