「人手不足倒産」が現実味を帯びる

 航空会社からすればパイロット不足は死活問題だ。特に安さが売り物のLCC(格安航空会社)はパイロット確保に今後も四苦八苦することになりそうだ。LCCの間ではパイロット争奪戦が始まっており、より良い条件を提示して機長などパイロットを引き抜く動きが出始めている。需要があるのに飛行機を飛ばすことができなければ、みすみす収益機会を失うわけで、「人手不足倒産」が現実味を帯びる。価格勝負のLCCでは人件費の増加を吸収できるだけの体力がなく、欧州ではLCCの破綻が相次いでいる。

 パイロットのような専門資格が必要な職業では、しばしば人材育成政策の失敗が起きる。日本ではまだまだ「資格を取得すれば、間違いなく就職でき、将来も安定」という前提で資格制度が運用されている。門戸を閉ざして既得権者を守る職業別組合を彷彿とさせる「ギルド型」と言っていいだろう。

 資格を持っているのに失業する事態を防ぐために、「需要を賄うだけの人数を供給する」仕組みに固執するわけだ。パイロットはまさしくその典型で、航空大学校や各航空会社の自主養成など「狭き門」を維持し続けてきた。航空会社同士の本格的な競争がないから成り立ってきた仕組みとも言える。

 ところがLCCの新規参入で状況は一変する。新たにパイロットを必要とする「需要」が生まれたのだ。そこに世界的な景気の底入れによる航空機需要が重なった。圧倒的にパイロットが不足し、それまでの予定調和型の人材育成では間に合わなくなったのだ。

 かと言って、パイロット育成を完全に自由化する方向には行かない。東京オリンピック・パラリンピックが終わり、仮に景気後退が始まれば、再びパイロット余剰が起きないとも限らないからだ。余剰が起きれば、リストラなどで既存のパイロットが不利益を被ることになる。また、競争が厳しくなれば、今は増え続けている給与が、反転することにもなりかねない。

 欧米の航空会社の場合、自国のパイロットだけでなく、外国人パイロットを積極的に受け入れ、人数不足を補っている。ところが日本の航空会社で働く外国人機長はまだまだ少ない。パイロットは本来、国際的に通用する職業で、企業間の移動もスムーズなはずだが、日本はその埒外になっている。航空会社の経営層や管理職層が日本人が中心で、なかなかグローバルな経営ができていないことも一因だ。

 日本の航空会社が飛行機を飛ばせなくても、海外の航空会社に発着枠を開放すれば旅客増は賄える、という声もある。だが、はっきりしている2020年に向けた旅客需要の増加を、日本の航空会社として取り込むことができなければ経営としては失敗だろう。せっかく日本で開く大イベントの経済効果を享受できなければ、開催する意味が半減する。

 少子化が進む中で、今後もますます採用難は続くことになる。公認会計士や弁護士など、似たような「ギルド型」の職業でも、試験突破を目指す若者の減少が顕著で、危機感を募らせている。資格取得までの時間と費用、そして労力を嫌う若者が増えたからなのか、その資格職業に魅力が薄れているのか。2020年以降をどう見据えて、パイロットの育成体制を整えるかも、早急に考えなければならない課題だろう。