子供の貧困を「ジブンゴト」の問題として捉える

ご著書でも、子供の貧困を「他人事ではなく」「ジブンゴト」として捉えて欲しいというメッセージが繰り返し述べられていますね。

小林:この問題がメディアに取り上げられる時には、極端ではないかと思われる貧困の実例を紹介するケースがしばしばみられます。確かにインパクトがあって関心は呼ぶのですが、どこか「他人事」に感じてしまいがちです。そこで、私はもう少し引いた視点で、数字を示して、子供の貧困は身近なところに存在していて、もしかするとすぐにそちらに転落してしまう「ジブンゴト」の問題だと感じてもらえたらと思ったのです。

貧困の子供たちへの投資が最も高いリターンを生む

その説得材料として、子供の貧困の社会的損失が大きいという試算をされたわけですね。

小林:高校中退で中卒になると40歳になった時、男性の4人に1人が働けていないというのはショックな数字でした。逆に言えば、子供の貧困対策として高校を卒業できるようにすれば、その人たちは働くようになるわけです。生活保護費がいらなくなる一方で、税金や社会保険料が国などに入るようになるわけです。この本でも紹介しましたが、ヘックマンという学者は貧困状態にある子供たちへの投資が最も高い投資リターンを得られると言っています。年率で15~17%だというのです。

15%ですか。

小林:日本での計測結果ではないので、日本でそこまでの投資リターンが得られるかは分かりませんが、今の低金利の中で、かなりのリターンが期待できる可能性はあります。子供の貧困対策はリベラルな人たちが支持する社会福祉政策としてだけでなく、穏健な保守主義の人たちにも受け入れられる「成長戦略」になると思います。

アベノミクスでは、女性の活躍促進や、高齢者が働き続ける事を後押ししていますが、貧困状態にある子供は経済社会の中できちんと活躍できていませんね。

小林:安倍晋三首相は女性の活躍を社会問題としてだけではなく、経済問題として捉えると言いました。まさしく子供の貧困を社会問題としてだけではなく、経済問題として捉える事こそが重要だと思います。

「学力」以上に、「生きる力」「やり抜く力」をつける

では対策として具体的に何をやるべきだと思われますか。

小林:本書の5章は力を入れて書いたのですが、学力を上げるプログラム以上に「生きる力」を身に付けさせるためのプログラムが必要だと思います。ダックワースという学者は、後者をGRITと呼んでいます。日本語にすれば「やり抜く力」といった感じでしょうか。IQよりもGRITが大事だというのです。

 別の言い方をすると、冒頭でも言いましたが、学力を「認知能力」、コミュニケーションや自制心といったものを「非認知能力」と呼びます。大事なのは学力ではなく、非認知能力の方だと言うのです。子供の頃に非認知能力を高める教育を行った場合、40歳時点で年収2万ドル以上の人が40%から60%に増え、生活保護受給者は23%から10%に減るという結果が出ています。また、学力を上げるプログラムというのは短期的には効果があるが、人生のような長いスパンで見るとあまり変わらない。むしろGRIT、つまり持続力とか情熱とかいったものを幼少期に身に付けた方が将来きいてくるわけです。

「家庭でも学校でもない第三の居場所」を作る

 では日本では具体的にどんなプログラムをやるか。かつてはそうした能力は家庭生活の中でかなり身に付けていた。逆に言えば今の貧困状態にある子供は家庭生活が瓦解しているから、そうした能力が欠落し、貧困の連鎖が生まれるわけです。つまり親をセットにした対策を打つ必要があります。家庭任せというのではなく、家庭の機能を地域や別の組織が代替的に担う仕組みを作ることでしょうか。日本財団では「家庭でも学校でもない第三の居場所」を全国に作る取り組みを始めています。