組合側がもっと高率の賃上げを求めるべきだ

 9月30日の会議で麻生副総理は面白い事を言っている。「経営者の意識が組合員のために自分達が賃上げ交渉をしているというぐらいに変わっているのだから、そちらが変わらなければ話にならない、と組合に言うのだが、20年間のデフレというのは、意外としつこく、意識から抜けない」というのだ。つまり、労働組合側がもっと高率の賃上げを求めるべきだと言っているのである。

 さらにメンバーである黒田東彦・日銀総裁も後押しする発言をしている。

 「毎年の春闘でも、ベアの交渉というのは昨年度の物価動向をベースに議論することになるので、どうしてもバックワードルッキングになり、過去の物価動向に引きずられてしまう面がある」

 黒田総裁は、賃上げ交渉が過去の物価水準をベースに議論されるので、物価が上がらないから賃金も上げないという方向で決まっている、というわけだ。日銀はプラス2%の物価安定目標を掲げているのだから、賃上げ交渉では、将来に向けて2%物価が上がることを前提に「フォワードルッキング」な議論をすべきではないか、というのだ。

 財務大臣も日銀総裁も、賃上げによって働き方改革に弾みを付け、生産性を上げて、成長率を引き上げていくことによってさらに賃上げに結び付くという好循環を期待している。

韓国は2015年から「内部留保課税」を導入

 だが、現実には企業経営者は大胆な賃上げには慎重だ。過去3年間の人件費の伸びを見てもそれは明らかだろう。ではどうすれば、賃上げの動きが加速するのか。

 東京新聞は10月7日付けで「デフレ脱却 切り札は賃上げ加速だ」という社説を掲げて、こう述べている。

 「要するに従来のやり方ではダメだということだ。では、どうするか。例えば、企業の内部留保に課税する。韓国は2015年から導入、賃上げや設備投資などが一定割合に満たない場合、不足分に10%課税している。法人税と二重課税となり、いわば禁じ手だ。だが経済界は片やアジア諸国並みに低い水準の法人税を求めてきたのだから、韓国のほか台湾も導入している内部留保税の方も受け入れたらどうか」

 実は、内部留保に課税する案は1年前にも浮上している(2015年9月25日付 当コラム「今や300兆円、企業の『内部留保』に課税案が再浮上?」を参照)。昨年9月上旬に日本を訪れた海外大手ヘッジファンドの幹部が、安倍内閣の閣僚やエコノミスト、経済人などを訪ねた際、しきりに「企業に内部留保を吐き出させるために、内部留保課税をしてはどうか」と提案していたのだ。それまで多くの海外ヘッジファンドは日本政府に法人税減税を求めていたが、それが実現した段階で次の弾として「内部留保課税」を根回ししていたのである。

「内部留保課税」が、筋が悪い政策なのは確かだが…

 内部留保は税金を支払った後の剰余金なので、それに課税すれば二重課税になる。筋が悪い政策だが、日本企業が内部留保を貯め込み続ければ、本気で課税によって企業行動を変えさせようという動きが出てくる可能性は十分にある。

 アベノミクスの政策の中で最も海外投資家の評価が高いのは「コーポレートガバナンス改革」だ。機関投資家のあるべき姿を示す「スチュワードシップ・コード」や、企業経営のあるべき姿を示した「コーポ―レートガバナンス・コード」の導入によって、日本企業の経営のあり方は大きく変化した。

 端的に表れたのが、株主への配当である。法人企業統計によると、日本企業の2015年度の配当総額は22兆2106億円と1年で32%増加、2012年度と比べると59%も増えた。当期利益の総額は41兆8315億円だったので、その53%が配当に回されたことになる。

 安倍内閣が進める「働き方改革」によって、企業の人件費はどう変化するのか。また、労働分配率は上がるのか。そして企業の内部留保の増加は止まるのか。来年秋の法人企業統計に何らかの変化が出るのかどうか注目される。

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