過去最大レベルに積み上がる内部留保

 それがどこへ行ったか。企業の内部留保に回ったのだ。法人企業統計の利益剰余金は377兆8689億円と過去最大に膨れ上がった。2012年から3年間で73兆3861億円も積み上がったのだ。

 経済財政諮問会議では民間議員の新浪剛史・サントリーホールディングス社長もこう発言した。

 「労働分配率は、大企業での低下が顕著に見える。長期的には、中小企業も低下傾向にある。日本の雇用の7割を支える中小企業の労働分配率を引き上げていく必要がある」

 そのうえで、「賃金の上昇を実現するためには、継続的な生産性の向上が不可欠」だとした。働き方改革では「長時間労働の是正」を掲げているが、生産性が同じままで時間だけを短くした場合、企業収益が悪化することになりかねない。労働時間を短くしてさらに賃金を引き上げるには、抜本的な生産性向上が不可欠だというわけだ。

「長時間労働の是正」と「賃上げ」を同時に行う必要がある

 ここで、賃上げが先か、生産性の向上が先かという議論が生じる。従来ならば、生産性を上げなければ賃上げは難しいというムードが経営者にあったが、そこはだいぶ変化がみられる。ひとつは圧倒的な人手不足の中で、賃金がジワジワと上昇していること。賃上げをしなければ優秀な人材が確保できなくなっているのだ。また、長時間労働などを改善しなければ、そこにも有能な人材は集まらなくなっている。長時間労働の是正と賃上げを同時に行わざるを得ない状況に経営者は追い込まれているのだ。

 もちろん、労働時間を短縮したうえで、賃上げに踏み切った場合、生産性が同じならば企業収益は大幅に悪化することになる。だからこそ、生産性を一気に向上させるような「働き方改革」が不可欠になるのだ。むしろ、経営者サイドの方が、労働者に効率的で生産性の高い働き方を求めるようになりつつあるのだ。

 労働力が余剰で、ふんだんに余っている状況ならば、経営者は人材の投入を主として考え、生産性の向上は後回しになりかねない。人手不足という環境がむしろ、「働き方改革」を迫っているのだ。

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