労働基準法改正は短期間の審議では困難
働き方改革関連で法案提出が決まっているのは「労働基準法の改正」である。焦点は大きく2つ。一つは今年3月末に政府の働き方改革実現会議(議長・安倍首相)が「働き方改革実行計画」の目玉としてまとめた「時間外労働の上限規制」だ。
もともと残業時間は月45時間、年間360時間と労働基準法で定められているが抜け道がある。労使で合意し、いわゆる「36(サブロク)協定」を結べば、上限を引き上げることができるのだ。3月末に決まった「実行計画」では、この上限を年720時間とし、原則の45時間を超えることができる月を6回までに制限。2カ月ないし6カ月の平均残業時間を80時間以内とした。さらに繁忙期だけ例外的に認める単月の上限を「100時間未満」と決めることで合意したのだ。
残業時間の上限を法律で明記し、違反した場合に罰則を設けることは、労働者側にとっては悲願だった。経営者側からは「100時間未満」ではなく「おおむね100時間」といった表現にするよう意見が出たが、最終的に安倍首相の裁定で「100時間未満」とすることに決まった経緯がある。いくら「英断」ぶって会議で決めても、法律が成立しなければ何にもならない。
年内に臨時国会が召集されるとすれば、安倍首相の外交日程が一段落する11月中旬以降、という見方が出ている。年内は予算編成もあり、せいぜい1カ月間の会期だろう。そんな短期間に衆参で審議し、可決させることは絶望的とも言える。
さらに、国会が新しい勢力になって、野党がすんなり労働基準法改正案に賛成するか、分からなくなった。というのも、労働基準法改正案にはもう一つの焦点が含まれているからだ。年収1075万円以上の従業員については時間規制や残業規定などの枠から外す、「高度プロフェッショナル制度」の導入がセットになる予定だからだ。
もともと、労働組合の連合は、高度プロフェッショナル制度の導入には反対だったが、今年7月、執行部が受け入れを表明した。残業時間の上限規制を実現するにはバーターも仕方ない、との判断だった。この連合の「妥協」を受けて、民進党が労働基準法改正案に賛成する、というのが安倍内閣のシナリオだったのだ。ところが、連合傘下の労働組合の猛烈な反発にあって執行部は受け入れを「撤回」する異例の事態になった。
その後、解散総選挙へとなだれ込む中で、民進党が事実上分裂。連合と民進党の協力関係も空中分解してしまう。
しかも、民進党から希望の党に移って立候補した前職の議員は猛烈な逆風にさらされることになり、希望の党は解散前議席も下回る惨敗となった。一方で、希望の党に合流しなかった枝野幸男氏率いる立憲民主党は躍進、野党第1党になった。
今後、連合は立憲民主党と関係を強化するとみられるが、民進党の左派が中心となって結党しただけに、政治スタンスがこれまでの民進党よりも左寄りになるのは確実だ。立憲民主党が労働基準法改正に反対に回った場合、連合も反対姿勢をさらに鮮明にする恐れがあり、短期間では国会審議は終わらなくなる可能性が高い。
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