企業の内部留保を生産性向上に活用するには

 実は、この付加価値を働き手の数で割った、一人当たりの付加価値(「労働生産性」と呼ぶ)はここ数年増えている。2012年度は666万円だったのが2016年度は727万円になった。9%の増加である。人手不足が深刻化する中で、一人ひとりの生産性は上がっているのである。もちろん背景には過酷な残業などが生じているという別の問題もある。

 旧来の日本企業は低い生産性を補うために、潤沢だった雇用を増やすことで付加価値全体を引き上げてきた。それが人手不足になって、雇用を増やすことができなくなり、一人当たりの生産性を上げざるを得なくなっている。この傾向は今後も続く。

 どうやって一人当たり生産性を上げるのか。これまでは働く時間を増やすことで付加価値を増やす方向に動いてきたが、これも限界にきている。過労死などが大きな社会問題になったことで、長時間労働の是正などが急務になっている。

 そうなると、時間を増やすことで付加価値を増やすことは難しくなる。だからこそ、働き方を抜本的に見直すことが不可欠になってきたのだ。

 現状の727万円という一人当たりの付加価値は決して高くない。最大でもこの7割が人件費として分配されるに過ぎない。社会保険料などもあるので、手取りはもっと小さくなる。これでは経済成長の実感など持てるはずはない。

 人手を増やすことが難しい上に、一人ひとりの労働時間も減らさざるを得ない中で、どうやって日本企業は付加価値総額を増やしていくのか。政府が「生産性革命」というのはここにある。個々の企業がより付加価値を生む事業に特化し、生産性の低い事業は切り捨てる。一人ひとりの働き方も思い切って見直し、付加価値を生まない作業はやめ、付加価値を生む作業にだけ時間をかける。端的に言えば、これが生産性革命だ。

 今の安倍首相官邸は、経済産業省出身の官僚たちが政策決定への影響力を握っているとされる。「生産性革命」「人づくり革命」と言った単語も、経産省のニオイがプンプンする。過去何回も経産省がまとめた「産業構造ビジョン」などでも、こうしたキャッチフレーズは繰り返し使われてきた。

 だが、それを実現するために、どんな具体的な政策を取るかとなると、意外と手法は限られている。補助金を出すか、減税するか、である。だが、それでは企業は動かない。設備や人材に投資せず、4年で100兆円も内部留保を増やしてきたのが実情だ。

 企業が付加価値を増やすのは企業経営者の当然の責務である。本来は国が旗振りせずとも、企業が儲かる事業に投資するのは当たり前なのだが、日本はそうなっていない。400兆円を超えた内部留保をどうやって生産性の高い事業への投資に向けさせ、付加価値が増えた恩恵を働き手に還元するようになるのか。選挙の勝敗はともかく、安倍内閣が掲げ続けてきた「働き方改革」を具体的に実行に移す時がやってくる。