事務次官の「定年」は何歳になる?

 「かつて完全週休二日制が公務員主導で社会に定着していったように、公務員の定年引上げが民間の取組を先導し、我が国全体の一億総活躍社会をけん引することも期待される」

 まず、公務員の待遇を変えれば、それに民間が従うはずだ、というのは何とも時代錯誤ではないか。定年を伸ばして総人件費が増えても税金か国債で賄うことができる公務員と違い、民間企業はそれを吸収できるだけの事業収益を生み出さなければならない。

 そうは言っても人手不足が深刻化しているのも事実だ。人員を確保するのに定年延長や定年廃止が選択肢であることも間違いない。だが、民間企業が定年を延長する場合、まず間違いなく人事制度を大幅に変えることになる。いわゆる年功序列型の賃金体系が大きく見直されていくことになるだろう。

 つまり、若い人も高齢者も働きに応じた報酬が支払われるようになり、ただ勤続年数が長いというだけで昇給していくような仕組みは姿を消していく。これまでは若年層には働きに比べて相対的に低い給与しか払われず、長期間在職することで働きに比べて相対的に高い給与が払われるようになっていた。より長期に会社に所属してもらう事にインセンティブを与えてきたわけだ。その終身雇用を前提とした年功序列型賃金はもたなくなると考えられる。

 そういう意味では、民間企業での定年延長論議は、日本企業の採用形態や日本人の「働き方」を根本から変えていく大きなきっかけになる可能性はある。だが、公務員となると話は別だ。仕事の仕方を変えなくても、定年延長ができてしまうからだ。本来ならば、公務員の年功序列型の賃金体系を抜本的に見直す必要があるのだが、そこに手を付けることはまさしく「公務員制度改革」に他ならない。当然、大抵抗に遭う。

 霞が関の中でも、若手の改革派の官僚たちは「定年延長?勘弁してください」という意見が多い。現在、事務次官の定年は62歳だが、公務員全体の定年が65歳になれば、次官は67歳あるいは70歳定年ということになりかねない。入省年次を基準に昇進を決める年功序列の人事制度を続けていけば、55歳になってようやく課長という「高齢化」が進むことになりかねない。若手が活躍する場が失われれば、有能な人材はますます役所に定着しなくなる。さっさと活躍できる民間に転職してしまう、あるいは、そもそも公務員になろうとするのは安定を求める人だけ、ということになりかねない。

 安倍内閣は、霞が関を優遇しているように見えて、実は霞が関を骨抜きにしている、という見方もある。内閣人事局が官邸に設置され、政治家が幹部人事を握るようになって、「官邸の意向」に逆らう幹部官僚はいなくなった。自らの人事に直結するからだ。定年を延長して「安定志向」が高まれば、さらに政治がコントロールしやすくなる、というのだ。

 そこまで安倍内閣が高等戦術を駆使しているかどうかは別として、公務員の定年延長が、公務員制度の仕組み自体を根底から揺さぶることになる可能性はありそうだ。