連合執行部の人事に生じた混乱

 高度プロフェッショナル制度は、年収1075万円以上の社員に限って、労働時間規制などから除外する仕組みだ。共産党や民進党、労働組合などは、「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」などと批判している。1075万円以上の年収がある従業員は全体の1%未満だが、労働組合側は、いったん制度が導入されれば、「1075万円以上」という条件がどんどん引き下げられ、対象が拡大していく危険性があると主張している。「働き方改革実行計画」では、高度プロフェッショナル制度についても「早期に実現を目指す」とされた。

 この2つの改正は「セットだ」というのが、高度プロフェッショナル制度の導入を目指す厚生労働省側の考えである。同じ労働基準法なので一括で審議し、同時に成立させるべきだ、としている。この2つの改正は、いわば「バーター」ということだ。

 そのバーターに応じたのが7月の連合執行部の「受け入れ表明」だった。

 受け入れを決めるに当たって、厚労相や官邸サイドと交渉していたのは、連合事務局長の逢見直人氏だったとされる。長年、会長候補と見られてきた逢見氏は安倍官邸とも親しく、調整に力を発揮してきた。「今回ばかりは逢見ちゃんは早まった。加計学園問題で安倍内閣を追い込んでいる時に慌てて合意する必要などない」(民進党幹部)と批判を浴びた。

 関係者によると、連合会長の神津里季生氏と逢見氏との間にも行き違いが目立っていた。「100時間未満」とした3月の合意でも、神津氏は100という数字ではなく、何とか90台の数字にしたいと考えていたが、逢見氏がさっさと「100時間未満」で手を打った。残業100時間で過労死すれば、間違いなく労災認定される。100時間未満ということは「過労死寸前まで働くことを認める」ということになり、組合員からの反発は必至だった。

 6月には新聞各紙が「連合・神津会長が退任へ。後任は逢見氏が軸」と書いたことも二人の関係を微妙にした。新聞報道直後、神津氏自ら「あれは誤報です」と厚労省幹部に連絡を入れている。

 神津氏は2015年10月に、下馬評の高かった逢見氏を抑えて会長になるが、背景には古賀伸明前会長の意向があったとされる。その際、「1期2年で逢見氏に譲るという密約がなされた」という噂もある。6月の報道は、その履行を迫るために逢見氏周辺が流した情報をもとにしたものだったのかもしれない。

 連合は7月19日に役員推薦委員会を開き、神津氏の会長続投の方向性を確認。新設した「会長代行」に逢見氏を就け、後任の事務局長に自動車総連の相原康伸会長を推薦する人事案を申し合わせた。高度プロフェッショナル制度への対応を巡って、逢見氏の連合内での求心力は急低下することとなった。