日本企業の稼ぐ力の「エンジン」に

 だが、実のところ、「働き方改革」はアベノミクスの重要なファクターであることが少しずつ明らかになってきた。

 2014年の成長戦略「日本再興戦略・改訂2014」では、日本企業に「稼ぐ力」を取り戻させることをテーマに掲げ、コーポレートガバナンスの強化に乗り出した。それまでコーポレートガバナンスは、どちらかと言うと企業経営者の暴走を防ぐための「ブレーキ」として議論されてきたが、「稼ぐ力」を取り戻させるための「エンジン」として期待されるようになった。

 例えば、不採算事業をなかなか整理できないのは、社長に意見を言える取締役がいないからだとして、「外部の目」として社外取締役の導入を義務付けるべきだという議論が起きた。不採算事業を整理して収益事業に集中すれば、当然、企業の収益力は向上する。

「ミッシングリンク」がつながり「ガバナンス」が回り始めた
安倍内閣が推進した主なコーポレートガバナンス制度改革(磯山友幸作成)

 当初、経団連などは社外取締役の義務付けに反対で、法制審議会(法務大臣の諮問機関)会社法部会がまとめた改正法案では、社外取締役1人の義務付けも頓挫した。それに対して、2015年に導⼊された「コーポレートガバナンス・コード」では社外取締役の選任を求めた。コードはあるべき上場企業の姿を示したもので、拘束力はないが、社外取締役の導入が大きなうねりとなり、今やほとんどの企業が置くようになったのは周知の通りだ。

 そうした取締役会を変えるための改革だけでなく、生命保険会社などを「モノ言う株主」に変えるために、機関投資家のあるべき姿を示した「スチュワードシップ・コード」を2014年に制定した。さらに、国民の年金資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革も行った。このほか、第2次以降の安倍内閣で導入されたコーポレートガバナンスに関わる制度改革は枚挙にいとまがない。

 日本のコーポレートガバナンス改革は1990年代から始まり、バブル崩壊後の会計不祥事などが、制度改革を加速させた。連結決算の導入やディスクロージャー(情報開示)制度の強化が図られたのは2000年前後だ。

 だが、当時のガバナンス改革は経済界の反対もあって部分的で、様々な「ミッシングリンク」があった。経営者にプレッシャーをかける取締役会に変わるための社外取締役の導入や、取締役会にプレッシャーをかける株主総会の改革、そこで議決権行使する機関投資家のあり方や株式持ち合いの見直し、生命保険会社のあり方、年金基金のあり方、そしてそこに掛け金を拠出している個人株主や法人株主への分配のあり方など、「円環」が完成しなければ、コーポレートガバナンスが機能しない。にもかかわらず、ところどころが欠落し、円環になっていなかったのだ。それが「ミッシングリンク」である。

 2014年以降の安倍内閣によるコーポレートガバナンス改革によって、ようやくその「円環」がつながったと言ってよいだろう。