フルタイムで働けば、年間収入は200万円超に

 今年3月に政府の「働き方改革実現会議」(議長、安倍首相)がまとめた実行計画では、「同一労働同一賃金」がひとつの大きな課題だった。仕事内容も責任の軽重も同じ人が正規雇用か非正規雇用かというだけで、賃金格差を設けることは認められなくなる方向にある。最低賃金の引き上げによって、こうした待遇格差が縮まるだけでなく、非正規雇用の正規化にも拍車をかけることになりそうだ。

 東京都で最低時給が1000円を超えてくると、仮に最低時給でフルタイムで働いたとして、年間の収入が200万円を超える。最低賃金はパートやアルバイトだけでなく、正規社員にも当然適用されるので、雇用されて働く人の年収が200万円を下回ることはなくなるわけだ。まだまだ十分な賃金水準とは言えないが、賃金格差や貧困問題を解消していくうえでも、最低賃金の引き上げは一定の効果を上げていると言えそうだ。

 問題は、ここに来て内閣支持率が急低下し、磐石とみられた安倍政権の先行きに不透明感が漂ってきたこと。労働に関係する政策は、労使や与野党など、主義主張や利害関係が対立するものを調整することが重要になる。政権基盤が強くないとなかなか実現できないテーマだ。

 今年秋の臨時国会では労働基準法の改正が大きな焦点になる。例外的に認める残業の上限を「100時間未満」とするなど残業上限を定める法案が審議されるが、政府がそれと「セット」での成立を見込んでいる「高度プロフェッショナル制度」の扱いが微妙になっている。高度プロフェッショナル制度は年収1075万円の専門職社員に限って、残業時間や残業代の規定を除外する制度。政府は、時間では成果を計りにくい専門職が自律的に働くのに不可欠な制度としているが、野党や労働組合は「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」だとして強く批判してきた。

 政府と連合が水面下で続けてきた交渉で、連合執行部は、法案の修正を条件に高度プロフェッショナル制度を容認する姿勢を見せたが、民進党や傘下の労働組合の強い反発で、方針撤回に追い込まれた。背景には、安倍内閣の支持率低下で、「臨時国会でまだまだ条件闘争できるのに、こんなに早い段階で妥協する必要はない」(民進党幹部)という主張が大勢を占めたことがある。政府の足元がぐらついた結果である。

 今後、安倍内閣がさらに弱体化すれば、これまで進めてきたアベノミクスや「働き方改革」などの方向性が大きく変わる可能性が出てくる。もともと安倍首相の改革路線に反対している自民党議員も多いが、安倍首相が高い人気を維持していた中で、「公然とアベノミクスに反対することはできない」(自民党ベテラン議員)というムードが強かった。安倍氏の求心力低下が、来年以降の最低賃金の引き上げや労働政策に、変調をきたすきっかけになる可能性は十分にある。