企業利益は急拡大も労働分配率は低下

 安倍内閣が最低賃金引き上げに積極的な背景には、アベノミクス開始以降、安倍首相が繰り返している「経済好循環」の実現がある。大胆な金融緩和などによって円高が是正され、企業収益が大幅に改善した。これが賃金の上昇に結びつき、消費の増加などとなって現れるのが「経済好循環」だが、まだまだ一般国民にその実感はわいていないのが実情。安倍首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップの実現を求め、春闘では4年連続のベアが実現しているものの、中小企業では、まだまだ賃上げの動きは本格化していない。

 企業は業績が好転していてもなかなか賃金の引き上げには回さず、内部留保として先行きに備える傾向が強い。最新の2015年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は377兆8689億円と1年前に比べて23兆4914億円も増えた。率にして6.6%の増加である。もちろん、最大の要因は企業が稼ぐ利益自体が高水準を続けていること。1年間の純利益は2014年度に41兆3101億円と10%も増えたが、2015年度も41兆8315億円とほぼ横ばいを維持した。アベノミクスが本格的に始まる前の2012年度の純利益は23兆8343億円だったから、円安などの効果で企業の利益は1.7倍に急拡大したことになる。

 この間の人件費の総額も増えていることは増えている。2012年度は196兆8987億円だったものが2015年度は198兆2228億円。1兆3241億円の増加である。ただし、利益(付加価値)の伸び率の方が大きかったので、賃金に回った割合、いわゆる労働分配率は低下している。

 最低賃金の引き上げによって、パートやアルバイトの最低賃金が上昇した場合、それにつれて中小企業の正社員の賃上げに結びつく可能性もある。今後も人手不足が続くことが予想されるため、不安定なパートやアルバイトに依存するよりも、正社員を採用したいと考える中小企業経営者は増えている。特に人手不足が深刻な外食チェーンや小売り、宿泊、運輸関係でこの傾向が強い。こうした業種は給与が低く、生産性が上がらない業種とみられてきたが、人手不足による賃金上昇が顕著になってきた。

 第2次安倍内閣発足直後から雇用者数は増え続けているが、当初は非正規雇用が大幅に増え、正規雇用はむしろ減少傾向が続いた。団塊の世代が定年を迎え、嘱託などとして継続雇用された時期と重なったこともあるが、景気回復が始まった段階での正規雇用に経営者が躊躇していた側面もあった。

 ところがここ1年ほどは非正規雇用の伸びよりも正規雇用の伸びが大きくなる傾向が現れている。最低賃金の上昇でパートなどの給与が相対的に上がったため、むしろ正規雇用を求める経営者が増えたとみられる。

次ページ フルタイムで働けば、年間収入は200万円超に