日本の雇用慣行を変える分岐点に

 日本では、談合やカルテルなど独禁法違反事件が後を絶たない。東海旅客鉄道(JR東海)のリニア新幹線建設工事でも、大手ゼネコン役員らの談合が摘発された。建設会社の社員の中には、まだまだ、談合は必要悪だという意識が残っている。談合を行う社員の側も「会社のため」ということで、罪の意識も薄いというのが実態なのだ。

 「会社のため」に犯罪も辞さないという発想は、欧米の社員の間にはまずない。会社のために自分を犠牲にするという考え方がそもそもないうえに、まして犯罪を手を染めるということに何のメリットも見出さないのだ。欧米企業の不祥事などは、個人が自分自身の利益を追求する形の犯罪がほとんどだ。罪を犯すのは自分の利益のためで、会社のためというのはあり得ないわけだ。

 会社が社員や役員に「会社のため」に犯罪に手を染めることを求めることもまずない。社員が罪を犯すことを厳しく監視し、問題があれば、会社が個人を告発するケースは少なくない。カルテルなど独禁法違反については、絶対に手を染めないという誓約書を書かせている企業も多い。会社のために行ったというのを理由に犯罪行為が許されたり、軽くみられたりする社会的なムードはない。

 そういう意味では、今回の司法取引は、日本の会社と社員の関係を劇的に変える分岐点になるかもしれない。「会社のため」に行った贈賄を、会社に告発されるとなれば、もはや誰も「会社のため」に罪を犯さなくなる。

 日本で「会社のため」が通ってきたのは、終身雇用が前提の雇用制度だったからだとも言える。いったん採用されれば、定年まで面倒をみてもらえるという「信頼感」が、会社に滅私奉公するムードを生み、「会社のため」というカルチャーを成り立たせてきた。

 安倍晋三内閣が進める「働き方改革」は、多様な働き方を認めることを一つの柱とし、副業や複業を後押ししている。人口減少による人手不足が今後ますます深刻化する中で、人材の流動化が進むことになる。そうなれば、終身雇用制度や年功序列賃金、新卒一括採用といった日本型の雇用制度は大きく崩れていくことになる。

 働き手が多様な働き方を求めるだけでなく、企業も新卒者を雇って生涯雇用し続けることに限界を感じ始めている。もはや会社は無条件で社員を守らないということが鮮明になった今回の「司法取引」は、日本の雇用慣行の崩壊を如実に物語っているのかもしれない。

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