同一労働同一賃金の実現で、年功賃金も崩れる
安倍首相は同一労働同一賃金を実現すると明言しています。

昭和女子大学特命教授
1946年2月大阪府生まれ。国際基督教大学と東京大学経済学部を卒業後、経済企画庁に入る。在職中に米メリーランド大学で経済学博士号を取得。OECD日本政府代表部とOECD事務局に出向した。上智大学教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授などを歴任し、現在は昭和女子大学特命教授。政府の経済財政諮問会議や規制改革会議の議員を務めた。専門は労働経済学、経済政策。『シルバー民主主義──高齢者優遇をどう克服するか』(中公新書)、『日本的雇用慣行を打ち破れ』(日本経済新聞出版社)、『反グローバリズムの克服:世界の経済政策に学ぶ』(新潮選書)など著書多数。
八代:本当に同一労働同一賃金を実現するのであれば、大革命だと思います。確かに非正規社員との賃金格差はなくなりますが、同時に勤続年数だけで給料が増える「年功賃金」も維持できなくなる。年功賃金というのは終身雇用制度と表裏一体の仕組みですから、いわゆる日本的雇用慣行と言われるものが、もはや普遍的なものではなくなるわけです。
連合など労働組合や、野党は、同一労働同一賃金に賛成ですね。
八代:経団連も連合も建前としては否定できないわけですが、本音では両者とも反対でしょう。とくに労働組合は正社員の定期昇給を最低限のラインとして守るために労使交渉を積み重ねてきた。最近では非正規労働者の加入を増やす組合もありますが、同一労働同一賃金が義務付けられれば、非正規の待遇が改善されると共に、中高年正社員の待遇が引き下げられる可能性が高いのです。
安倍首相は本気なのでしょうか。
八代:仮に、経団連や連合のように、「現行の雇用慣行に配慮して」という制約をつければ実態はあまり変わらないでしょう。現在でも、すでに雇用機会均等法や労働契約法には不合理な差別的取り扱いを禁止する規定があるわけですから。少なくとも企業に対して、正社員の間や正規と非正規の間での待遇格差についての説明責任を課すことを法律に盛り込む必要があります。これは企業にとっては「負担増」といわれていますが、いずれ合理的な人事管理を促進させるうえで役立ち、企業にとっても大きなメリットがあります。
説明責任を課す場合、どこまでが許容範囲か線引きすることは難しいですね。安倍首相はガイドラインの作成を指示しましたが、難航しているようです。
八代:正社員は、慢性的な残業や転勤を事実上拒絶できないという差異だけで、類似の業務の非正社員と2倍も3倍も待遇格差があることを合理的だと言えるのか、難しいと思いますね。
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