定年時点で明らかになる自分の「時価」

 安倍首相は当初から、女性の活躍を推進するのは、男女同権などの社会政策としてではなく、経済政策だと明言してきた。人口減少が鮮明になり働き手が足らなくなるのを見越して、女性を労働市場に参画させようとしたのである。

 さらに安倍内閣は、「1億総活躍」や「人生100年時代」を政策キャッチフレーズとして掲げた。これは明らかに高齢者により長く働いてもらおうという方針だった。定年を超えて働き続ける高齢者が確実に増えている。

 定年を法律で引き上げるべきだという声もあるものの、企業側の反発も強かった。一律に定年を延長すると、日本の終身雇用年功序列型の仕組みの中では、高齢者が会社の幹部に居残ることになり、組織の活力を失わせる、という批判があったからだ。多くの企業が、再雇用でいったん仕切りなおしてから高齢者を継続雇用しているのはそうした懸念の表れだ。

 だが、ここへ来て、企業は深刻な人手不足に直面している。前述のようにここ5年は人手不足と言いながら、働く人の数は増えてきた。だが、女性の労働市場進出もそろそろ限界に近づいている。今後景気が本格的に上向けば、間違いなく人手不足はさらに深刻化する。

 外国人労働者を本格的に受け入れることも必要になるが、移民へのアレルギーが強いとされ、安倍首相は「いわゆる移民政策は取らない」と言い続けている。

 また、「働き方改革」を通じて、社員の生産性を向上させるよう求めているが、これには日本の会社システムを根本から見直すことが必要になる。

 そんな中で、急速に期待が高まっているのが「定年延長」や「定年廃止」である。せっかく戦力になっている人材を、定年年齢に達したというだけで引退させてしまうのはもったいない。働けるだけ働いてほしい、というのが企業の本音なのだ。

 だからと言って、一律に定年を65歳に引き上げることには抵抗がある。経営者から見て、働き続けてほしい人材ばかりではないからだ。日本ではなかなか正社員を解雇できないので、定年がちょうど良い「区切り」になっている面もある。定年を機に再雇用することで、会社が欲しい人材には現役時代と遜色のない給与を提示、必要性の低い人材には大幅に引き下げた賃金を提示して、再雇用交渉を行っている。社員からすれば、その時点で初めて会社の自分に対する「時価」がわかるわけだ。

 深刻な人手不足の中で、年齢に関係なく、元気なうちは働き続けてほしいと考える経営者が増えている。いっそのこと、定年を廃止してしまおうという企業も少しずつ増えている。

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