働き方改革関連法案がいよいよ閣議決定され、今国会に提出、審議が本格化する。時間外労働の上限をどんなに繁忙な時でも月100時間未満とするよう定め、罰則も設けるなど、画期的な内容を含む。一方で、時間によらない働き方をする専門職を対象にした「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の導入も盛り込まれている。

 果たして、今回の法案が成立すれば、日本人の働き方が変わり、長時間労働は是正されていくのか。人材に関する問題解決に取り組むコンサルティング会社「ヒトラボジェイピー」の社長で、立命館大学大学院教授も務める永田稔氏に聞いた。

(聞き手は、磯山友幸)

今回の法案で日本の長時間労働は変わるのでしょうか。

永田稔・ヒトラボジェイピー社長(以下、永田):罰則付きで残業時間を規制するなど、これまでにない法改正であるのは事実ですが、日本の職場に根付いた「残業体質」が一気に変わるかどうか、疑問ですね。というのも、仕事の量や複雑さだけでなく、働かせる上司のマインドや働いている部下本人たちの意識が、日本企業の残業体質や非生産的な体質を作り上げているからです。この風土の問題をどうにかしないと、長時間労働は解決しません。

<span class="fontBold">永田稔(ながた・みのる)氏 </span><br />ヒトラボジェイピー社長。立命館大学大学院経営管理研究科教授。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてMBAを取得。松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ワトソンワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。ディレクター兼組織人事コンサルティングチーム部門長などを務めた。ビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウィリス・タワーズワトソンを退社し、ヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を設立。 著書に『不機嫌な職場』(講談社、共著)など。
永田稔(ながた・みのる)氏
ヒトラボジェイピー社長。立命館大学大学院経営管理研究科教授。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてMBAを取得。松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ワトソンワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。ディレクター兼組織人事コンサルティングチーム部門長などを務めた。ビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウィリス・タワーズワトソンを退社し、ヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を設立。 著書に『不機嫌な職場』(講談社、共著)など。

部下のマインドですか。

永田:ヒトラボジェーピーでは、クライアント企業の事業責任者や管理職、中堅若手の社員などに70問にわたる綿密な質問票を記入してもらい、それを集約して、その会社の「働き方」「働かせ方」のどこに問題があるかを分析するサービスを行っています。いわば「残業体質の診断調査」です。

どんな調査を行うのでしょうか。

永田:会社の「組織風土」と「環境・仕組み」、上司つまり管理職の「マインド」と「スキル」、社員本人の「マインド」と「スキル」、そして「業務の量と質」の7つについて、どれぐらい長時間労働の要因になっているか聞きます。また、「仕事のやりがい・活力」や「ストレス状態の認識」についても聞きます。

回答に全体的な傾向はあるのでしょうか。

永田:各社、結果には差があるのですが、これまでに受託した15社約2000職場の全体集計をかけると、ある傾向が分かりました。まず、業務の複雑度や非定型度合いが高まっていると多くの回答者が答えています。仕事が難しさを増す一方で、業務に対する習熟度が追い付いていない、学習スキルが足らないと焦っている社員がかなりいることが分かります。

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