「皆さんは自信を失わないでほしい」

 だが、働いている従業員からすれば、釈然としないに違いない。実際、米原子力発電事業での巨額損失を明らかにした2月14日に、綱川智社長はこう社員に語りかけていた。

 「本年度の業績問題は私を中心とする経営陣の舵取りにあって、決して皆さんが作り出す技術や品質が問題を起こしているわけではないので、自信を失わないでほしい」

 かつて自主廃業した山一証券の野澤正平社長は、記者会見の席上、「みんな私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから」と号泣した。それを彷彿とさせる発言である。

 不正会計問題に決着を着け、出直そうとしていた矢先に発覚した子会社の原子力事業での巨額赤字。東芝本体の社員からすれば、突然、天から降って来た災厄と感じているに違いない。しかもそれが、自分たちの待遇悪化という実損を伴う形になってきたのだ。

東芝社員のモチベーションの下落に拍車

 東芝社員のモチベーションはどんどん低下している。経営陣の説明に納得している人も少ない。東芝の現場では少しずつ人が辞め、そのしわ寄せが残った社員の労働環境をさらに悪化させている。若手で精神を病む人も増えているという。優秀な人材ほど、仕事が集中するのは世の常だが、非常時ともいえる今の東芝ではそれが極端な形で進行している。そこに今回の「緊急対策」が追い打ちをかけている。

 「上限いっぱいまで残業して仕事をこなしているのに、その残業代をカットするというのだから、やる気が失せますよ」と中堅社員は吐き捨てる。緊急対策は「一律カット」だが、結局は歯を食いしばって現状を打破しようとしている優秀な社員ほど、カットの実損を食らう。モチベーションの下落に拍車がかかる。

“日本型ワークシェアリング”

 欧米企業が経営危機に直面した場合、まっ先に大幅な人員削減を打ち出すケースが多い。固定費である人件費を削減することが、会社再建に即効性があるからだ。いわゆる「ジョブ型」の雇用契約で、社員それぞれの仕事が明確になっている場合、ある事業の縮小や休止を決めれば、自動的に仕事がなくなる社員が一定数生まれる。その人たちを削減するのは半ば当然の経営判断として行われる。

 一方の日本企業は業績が傾いたくらいでは人員削減に踏み込まない。「雇用を守る」ことが至上命題であるかのようだ。日本人が外資系企業の雇用形態を語る時にしばしば言うのが、「外資は給料が高いけど、いつクビになるか分からない」というセリフだ。実態はだいぶ違うのだが、逆に言えば、「日本企業は日ごろの給料は安いけれど、終身雇用でクビにならない」ということになる。実際、日本の経営者も雇用には手を付けないことが絶対的に正しく、もしリストラをやれば、社長辞任は不可避というムードがある。

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