脅迫的な言葉遣いは「アウト」

ボーイスカウトというと規律を守るために厳しく叱責したり、キャンプでしごかれたりというイメージがあります。

増田:確かに、かつての活動にはそういう面もありました。学校の部活動などでもそうですが、「俺はそうやられて強くなったんだ」と考えて同じ事を繰り返す指導者がいます。しかし、今は体罰はもちろん、脅迫的な言葉遣いをする事もアウトです。青山学院大学の駅伝チームの例がよく挙げられますが、昔からのやり方を排除して科学的な訓練をして他大学を凌駕しています。「セーフ・フロム・ハーム」を徹底させることで、組織の質、活動の質が高まると期待しています。もちろん、子どもを入隊させる保護者にとっても、この組織が安心で安全だということは極めて重要だと思います。

最低限やってはいけない事を共有する

少子化の影響もあって、加盟員の長期的な減少傾向が続いているそうですが。

増田:せっかくボーイスカウトに入隊しても、途中でやめてしまう子供が少なくありません。もちろん、他の習い事や受験などが理由なのですが、人間関係が嫌になってやめているケースが一定数あるのではないかと考えています。子供どうしの関係だけでなく、指導者が気に入らないとか、他の保護者とうまくいかない、といった例があるのではないでしょうか。

 また、長くやっている指導者と新しい指導者の間で、いじめやネグレクトのような問題も起きていると思います。それがきっかけで、この組織から離れていっているとすれば、とても残念なことです。

 最低限やってはいけない事を、共通認識としてメンバー全員が持つことで、人間関係を良好に保つことができる、それが「セーフ・フロム・ハーム」のひとつの考え方です。

欧米と日本はやや状況が違うと仰いました。

増田:欧米の場合、子どもが性犯罪に巻き込まれる事が深刻な問題になっています。米国連盟では指導者と子供が一対一で会う事を禁じています。また、オーストラリア連盟では指導者になるためには警察に無犯罪証明をもらう必要があります。日本はまだそこまでは行っていません。モラルやマナーを知ってもらうという段階ですが、日本でもリーダーとして不適格な人には辞めていただく、といった対応が必要になってくるかもしれません。

様々な組織へ応用可能な「セーフ・フロム・ハーム」

「セーフ・フロム・ハーム」について一般からの問い合わせが来ているそうですね。

増田:ある県の教育長さんから問い合わせがあったほか、私の地元の市長さんからも質問が来ました。ガイドブックが欲しいという要望もあります。この「セーフ・フロム・ハーム」は様々な組織への応用が可能だと思います。企業にせよ、学校にせよ、NPOにせよ人と人が関わる場には必ず「ハーム」が存在する危険性があります。技能や知識を磨く方法はたくさんありますが、人格や品性といったものをトレーニングする方法はなかなかありません。

 私は建築士です。技能や知識を持っていれば建築士になれますが、それだけでは不十分です。法律上OKでも危ない建物はあります。倫理上はダメなはずですが、それを建てるかどうかは建築士の倫理観ということになります。「思いやりの心」を持てるかどうか、他人の痛みを自分のものとして考えられるかどうか、です。

 私たちが取り組み始めた「セーフ・フロム・ハーム」という取り組みはまだまだ完成形ではありません。これからも議論を深め、具体的な事例に対応していきます。日本連盟に相談窓口も作ります。

 「セーフ・フロム・ハーム」を世の中の様々な場面に応用していただき、その成果をフィードバックしていただければ幸いです。