ドイツでは家の資産化を進める副産物として、弊害も生じている。それが顕著に表れているのが慢性的な家不足問題だ。

 冒頭のキッセルさんから後日、記者の元にメールが届いた。そこには5軒の物件情報が添付されていたが、3~5カ月先に入居可能な賃貸住宅のみで、分譲住宅は含まれていなかった。

家が見つかるまでホテル暮らし

 3年前にイギリスからドイツ・ミュンヘンに移り住んだ日本人男性は言う。「うちは妻子と3人家族だが、なかなか家が見つからなかったので1年半は狭い単身用アパートに住んでいた。希望する条件に合った物件が出てきても見学申し込みの時点で他の人が先に成約してしまうことも多々あったよ」。ドイツに移住した日本人の中には住む家すら見つからず、半年以上ホテル暮らしを続けている例もあるという。

 ドイツの新築着工件数はこの10年間で年15万~25万戸で推移してきた。総住宅数と総世帯数は同水準の4000万戸超で均衡している。

 20年前後で資産価値がゼロになる日本の木造住宅と異なり、石造りが主流のドイツの住宅の場合、60~80年は価値が残ると言われている。加えて、省エネ性能を評価する制度(エネルギーパス)が整っているため、中古住宅であっても最先端の省エネ設備を導入するリフォームを行えば、家の資産価値が向上する仕組みになっている。

 実際、ドイツの一戸建て・二戸建て住宅を建築年代別に見ていけば、1958~1968年が全体の16%に相当する236万戸。1969~1978年は同13%の194万戸に上る。1918年以前の住宅も220万戸と同15%を占めている。

ドイツの首都ベルリンの街並み。戦前の古い家は今も住宅として使われている

 もちろん日本のように地震や台風などの天災が起こる確率が低いという環境の違いがあるため、単純比較はできない。だが、需給がバランスしている点に加え、建物の資産価値を担保する制度が整っていることから、家の資産価値が落ちにくい仕組みになっているのは厳然たる事実だ。

 一方、需給がバランスしているが故に、前述のように空き物件が見つからないという問題が起きている。ただ、家を資産として捉えているドイツでは、家がなかなか見つからない、建てられないという状況は当たり前のこととして受け入れられている。キッセルさんが言うように、家は「時間をかけてゆっくりと探し出すもの」という意識がしっかりと根付いているからだ。

 前回の記事に登場したアンドレアス・デレスケさんはエネルギー消費量を大きく抑える「パッシブハウス」と呼ばれる最新鋭の集合住宅を建てるのに5年の月日を費やした。住民代表として計画段階から関わったため、5年間は「四六時中家のことばかりを考えるような状況」に陥った。だが、結果として資産価値を高めることができたため、「まったく後悔はない」と話す。