本山さんは、産業界の経営の第一線で長く働き、海外の企業買収など「修羅場」も多く経験しています。そのようなご経験から、大学経営のあり方については、どのような問題意識を持っていますか。

1950年、東京都生まれ。1972年、東京理科大学理工学部を卒業、アサヒビール(現アサヒグループホールディングス)入社。物流システム本部長など物流やIT(情報通信)の要職を歴任し、2003年執行役員・戦略企画本部長、2010年副社長、2013年アサヒ飲料社長。2015年3月にアサヒ飲料社長を退任、同年9月から東京理科大学理事長。(写真:竹井 俊晴)
私自身は企業、大学ともに、自分たちの団体をより良いものにしていこうという理念や考え方は共通していると思います。課題解決なり、価値向上なりというというところでは、企業でも大学でも普遍的なものはありますよね。それを達成するためにどのようにPDCA(計画・実行・評価・改善)を回していくか、組織や人的資産をどのように活用するかという意味では、重要な部分は一緒だと考えています。
大学に関しては教員は研究と教育、事務方が経営を担うという役割分担がある。先生方は教学の面で、素晴らしい人材を育てたり、より優れた研究成果を追求する。それは大学の価値を高めることになる。一方、私のように理事長をはじめとする理事会はどのように経営を安定させて、教育研究費を確保するか、どのようにお金を回していくかを考えるのが基本です。それもまた、大学の価値を高めるためには欠かせないですよね。
ただ、これまでの大学においては、教学を担う部分において評価の「物差し」が不明瞭なところがあったのも確かです。理事会においても、どのようなマネジメントをやっていくかという面で課題はありましたね。私自身は2015年の秋に理事長に就任しましたが、物差しをしっかり作って、PDCAを回せるようにならないといけないという問題意識は強かったですね。
東京理科大は学生もきちんと集まるし、教育環境も整っていて就職率も学生3000人以上の大学ではトップクラス。この先も50年、60年とそんな大学であり続けていくために何が必要か。資金面では、授業料収入だけに頼ることなく、企業との結びつきで外部資金を獲得していく。ではそのために、どのような研究が大学の価値を高めていくか。それを見極めて、優先順位をつけて予算を配分するのが法人と学校側のバランスだと考えています。
大学と企業の結びつき、色々な可能性はある
そうした問題意識を基に、理事長に就任されて以降の経営改革を進めてきたのですね。
教学のトップは学長ですから、学長室をはじめとして膝詰めで喧々諤々の議論は常にしていますよ。2016年春から動かしている経営計画にはお話ししたような考え方を散りばめていますが、最も重要なのはきちんと予算を策定して、徹底してPDCAを回していくこと。加えて、経営の土台になるキャッシュを積み上げる意識を持つこと。少しずつですが、事務方の意識も変わってきているし、理事会のマネジメントもより上手くできるようにはなってきていると思います。
外部資金の獲得や産学連携は、現状多くの大学が直面している課題です。本山さんはこの点についてどのように考えておられますか。
まず、大学と企業の結びつきという意味では、色々な可能性はあると思います。ただ、具体的にすぐ大きなお金を生めるかというと、現状では難しいですね。例えば、私が前職で人脈があった会社に行って、「こういう研究があるので御社のこの事業と関連させて何かできませんか」と言ったって難しいでしょう。やはり、先生方が独自の研究成果を持って、それを企業との関係をしっかり構築する中で提案していくことが重要です。
企業側も、自分たちのコアコンピタンス(中核となる強み)はよく理解していても、そこからズレた部分については、先生方が提案する研究成果に飛びつきにくいんですね。逆に大学側にしてみれば、企業が考えている的をかすめられるような、よい提案がどれくらいできるかが課題になっている。企業と大学の間を埋めて、つながりをどれだけ生み出せるかが成否に関わります。
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