UETでは、ほとんどの教員が欧州や米国での留学経験を持っており、若くして海外で学んだ教員が大学で研究と人材育成を担う仕組みになっている。

 校舎内を歩き回ると見つかるのが、「IBM」といった海外企業の名前を冠した部屋が数多くあることだ。これは海外企業との共同研究を広範囲に行っていることを示している。「ソフトウエアでは米IBMやNTTデータ、LSIでは韓国サムスングループや東芝など有名企業と組んでいる」(ハー学長)。こうした企業からは資金面での援助を受けたり、技術者や講師の派遣を受けたりしている。

UETでは「IBM」や「サムスン」など世界の有力企業と共同研究が進む。

 取材の途中である部屋に案内された。そこはパソコンが並ぶコンピューター室で入り口には「サムスン・タレントプログラム」と書かれている。サムスンは資金だけでなく、こうした形でパソコンやサーバーを提供し、講座も持っているという。さらに優秀な学生をインターンシップで受け入れて、社員として雇うケースもある。「まだまだ多くの企業からみれば、大学は人材確保の場という面が強いが、高いレベルの企業と組むことで、間違いなく自分たちの研究レベルが上がっている」(トラン准教授)。

独自の強化プログラムを用意

 日本の大学への関心についても取材した。ベトナムの最上位校の一つであるハノイ工科大学広報部のリー・ヒエウ・ホック部長は、「優秀な層を中心に、日本の大学を選ばない学生が増えている」と指摘する。同じくUETのハー学長は自身も日本の拓殖大学への留学経験を持つが、「残念なことに日本の大学への関心が薄れている」と同様の考えを示した。UETでは、学生が選ぶ留学先はアメリカやフランス、さらにはオーストラリアが最近は増えているという。

 日本の大学への「パッシング」とも言える状況が生まれつつある理由についてハー学長は、「日本語習得の必要性と金銭面の問題があるのでは」という見方を示す。「ベトナムのトップ層は英語を使える学生が多く、日本語を覚える手間暇が、勉強や研究の邪魔をすると考えている。欧米ならばすべて英語で授業や研究を進められるので有力な選択肢になる」(ハー学長)。

 金銭面では、「学費や生活費をまかなえる奨学金も、他国と比較すると日本には少ない印象だ」という。安いといわれる日本の国立大学の学費は年間53万円ほどだが、UETやハノイ工科大学の学費はいずれも年間3万円ほどだ。

 UETとハノイ工科大学に共通する新しい傾向がある。「最近では、留学ではなく自国の大学や大学院を選ぶ学生が増えている」(ハノイ工科大学 ホック部長)という。これはベトナムの大学のレベルが上がっているためだという。大学ランキングにも表れているが両校ともに2016年から校内でもトップ層の学生だけを選抜し、海外からトップクラスの教員を招聘した特別プログラムを始めた。UETでは特別プログラムの学費を年10万円に上げたが、充実したプログラムが用意されていると評判になり、優秀な学生が集まってきているという。いずれも研究や教育レベルの向上に余念がなく、「今はまだ少ないが、ベトナムに海外からの留学生が集まるようにレベルを上げる」(ホック部長)という目標を掲げている。

 気づかぬうちに、一気に日本の大学を追い越していく。日本の大学がこのまま安穏としているならば、それが現実になってしまう日も近いかもしれない。