東ガス1位で東電3位、切り替え検討の独自調査
日経ビジネスオンライン・エコマム読者向けの電力自由化の意識調査
日経エコロジーと季刊誌エコマムが共同で電力小売りの全面自由化に関する調査を実施した。調査対象は日経ビジネスオンラインとエコマムの読者で、有効回答は996人だった。
日経エコロジーは各社の料金メニューを受けた消費者の最新動向をつかむために、2月5~18日に緊急調査を実施した。
性別や年齢、電力使用量ごとに意向を聞いたほか、ガス自由化の認知度や再エネや原子力発電への意向などを幅広く尋ねた。
新しい料金プランを検討したい電力会社(本誌アンケート調査、複数回答)
日経エコロジーの調査で4月からの電力小売りの全面自由化で、東京電力以外の料金メニューを検討している消費者が多いことが分かった。
調査ではまず「電力会社を選ぶことを検討するか」を聞いたところ、「既に比較・検討を始めている」「検討してみたい、検討する予定」を合わせて検討する意向がある人の割合が43.6%に上った。
「まずは様子を見たい」が45.5%と最大だったが、「現在の電力会社で満足なので変える予定はない」「面倒なので変える予定はない」など検討する意向がない人の割合は、わずか10.9%にとどまった。
上記の切り替えを検討する意向がある人に、どの電力会社の料金メニューを検討するかを聞くと、1位が東京ガスで34.1%、2位がJXエネルギー(ENEOS)で32.5%、3位が東京電力で31.1%と続いた。
今回の調査はエリアを絞らずに実施している。東ガスとJXエネは今のところ首都圏でのみ電力販売をするため、条件としては関西や中部エリアでも電力販売する東電の方が有利だった。
もちろん、新料金を検討しない消費者は、そのまま地域の大手電力と契約し続けることになる。新料金メニューについては、東電は東ガスとJXエネの後塵を拝した格好だ。
4位にKDDI、5位にソフトバンクがランクイン。大手電力会社と提携し、テレビCMなど多くの広告を打っている企業の人気が高かった。
楽天はまだ料金メニューを発表していないにもかかわらず6位に入った。固定ファンの多さが伺える。
追加値下げで猛追した東京ガス
アンケート調査の前半は、JXエネの独走状態だった。同社は1月14日に料金メニューを発表し、その割引率が他社を大きく上回っていたからだ。
基本料金は政府の認可を受けた規制料金である東京電力の従量電灯Bと同じだが、電気使用量当たりの単価が大幅に安い。300kWhまでの第2段階は従来比10.2%、301kWh以上の第3段階は従来比14%も値下げした。
初めての発表は他社の様子を見るために控え目な割引率を設定している会社がある中で、同社は「始めから直球を投げた」(JXエネ電気事業部の大村博之部長)。
ところが、アンケート調査の後半から東ガスがぐんぐんと追い上げ、最終的にはトップに躍り出た。
これは2月1日に東ガスが追加の値下げをしたことが大きい。12月24日に料金メニューを発表した際には反応がいまひとつだったようだ。
コラム「でんき総選挙」の初回で紹介したように、東ガス・事業革新プロジェクトの笹山晋一部長は「ファーストペンギンだった。(飛び込んだ海は)ちょっとしょっぱくて冷たかった」と語っている。
電力使用量の多い消費者が検討する電力会社(40~60アンペア契約が対象)
電力使用量が多い世帯でも東電は劣勢
アンケート調査では基本料金が40アンペア以上の世帯で、東ガスとJXエネを検討する人の割合が、それぞれ東電を上回った。
これは東電にとって痛手だ。電力料金は使用量が多いほど単価が高くなっており、電力会社にとって、電力使用量が多い世帯は利益の源泉だからだ。
東電はこの層を死守するために、電力使用量が多い世帯の割引率が高くなるプレミアムプランを発表している。それでもこの層の世帯が他社に流れれば、東電としては看過できない事態となる。
性別や年齢ごとの特徴を見ると、JXエネは男性からの支持が高い。ドライブなどでガソリンスタンドの馴染があるためと推測できる。
東電は40歳までの若者の人気が他の世代より高い。電力使用量が少ない単身世帯などにおいては値引き率が低く、最大手の東電に関心が集まっているのかもしれない。
戸別訪問チャネルを持つ企業の出足が早い
今のところ顧客獲得数を発表しているのが東ガスと東急パワーサプライだ。東ガスは2月23日までに約5万4000件、東急パワーは2月24日までに2万件を突破したと公表している。
いずれも日頃からガス機器の整備やケーブルテレビの契約などで戸別訪問をするケースがあり、顧客の接点が濃い企業だ。料金メニューを細かく比較するのではなく、普段から付き合っている企業と電気についても契約したという流れがあるようだ。
A・T・カーニーの筒井慎介プリンシパルは「戸別訪問チャネルを持っている企業は出だしで顧客を獲得しやすい」と分析する。
契約切り替えの感応度は高い
これまで、消費者は電力料金がどれくらい安くなると契約を切り替えるかが議論されてきた。
経済産業省が昨年11月に実施した調査では、月の電気料金が従来より5%安くなれば切り替えると答えた人の割合が25%だったが、日経エコロジーの調査では5割を超えている。また月に3%の割引率で27%の世帯が切り替えを検討すると答えている。
新料金は従来の従量電灯より5%以上安いところが多い点を考慮すると、切り替えが大幅に進む可能性がある。
電気料金がどれくらい安くなれば、電力会社の切り替えを検討するか
ガス小売りへの理解はこれから
各社が積極的に宣伝し、多くのメディアが取り上げていることから、電力自由化への理解は進んでいる。
本誌の調査では「電力の小売り自由化についてよく知っている」と答えた人の割合が、22.6%に上った。
一方、2017年4月から始まるガス小売りの全面自由化については理解が進んでいないようだ。
「ガスの小売り自由化についてよく知っている」と答えた人は6.5%にとどまり、「聞いたことはある程度」は20%、「知らない」が39.9%に上った。
まだ制度の詳細が決まらず、広報活動も進んでいない。ガス会社が電気とガスのセット割引について2年縛りにしているケースもある。
今後も認知度が高まらなければ、ガス小売りへの新規参入事業者には不利な立場に追いこまれそうだ。
31.9%が再エネなど環境対応を参考
アンケート調査で興味深かったのは、再生可能エネルギーや原子力発電への関心が高かった点だ。
「電力会社を選ぶ際に参考にする点」を聞くと、「料金が高いか安いか」が80%でトップだった。
その一方で、「再エネを使って発電しているかなど環境対応」が31.9%、「原子力発電を行っていないなど発電方法」が27.3%だった。
エコマムという環境意識が高い読者の回答が多いとはいえ、この結果は環境対応のメニューに一定の需要があることを示している。
その傾向は特に男性より女性に強い。女性は再エネに33.7%、原子力発電を使っていない発電に30.8%が参考にしていた。
こうした消費者からは、太陽光発電所の建設に積極的なソフトバンクや生協の人気が高かった。
3月11日に東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から5年目の節目を迎える。
電力自由化が進んだきっかけは、震災直後の東電の計画停電や、電力各社の料金値上げだった。
今回はコラム名に「総選挙」という言葉を入れた。政治の在り方を決めるのが国民の投票であるように、日本のエネルギーの在り方を決めるのは消費者一人ひとりの選択だ。
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