現在はマネジメントを行う傍ら、周りの研究者の心に火をつけるような研究も引っ張っている。

「ぶれないn」を求めて

 「時計って分解できますよね。分解した部品を袋に入れて揺すっても元の時計にはなりませんが、設計図があれば、それを見ながら組み立てることはできます。今、食品についてはこの設計図がない、描けない状態なんです」

 経験値の高いプロのシェフとそうでない人が同じ食材を買いそろえても、できる料理の味が違うのはそのせいだという。

 「でも、設計図はなくても、コントロールできるのではないかと、その可能性を信じて取り組んでいるところです。それができれば、『だからこの原料が必要だ』『目指すゴールに行きつくための可能性が最も高いのはこれだ』といったことが、わかるようになってきます。すると、おいしい理由はこうだと説明できるようになり、どんな人が調理しても同じようにおいしい料理というものが実現できるでしょう」

 “おいしい”とはどういうことなのかが、今以上に気になりそうだが、中原さんの研究スタンスのひとつに、“指標化し計測できるものでなければ実現することはできない”がある。

 「一般的にはn数を増やして指標化しようとしますが、実際にはn=1であっても、ぶれないnがあればいいだけのことです。指標化するときも、確実な指標を出してくれる人がいればいいと考えています。たとえばウィスキーのブレンダーは選ばれた人がやっていますよね」

 反応場は重要だ。でも、場だけあっても反応は起こらない。そこにはその反応場で、期待通り、あるいはそれを超えた反応を起こすポテンシャルを持つ何か、誰かの存在が不可欠なのだ。

中原光一(なかはら・こういち)
サントリーグローバルイノベーションセンター
研究部 上席研究員
博士(農学)
<略歴>
1988年 九州大学大学院農学研究科修士課程修了
1988年 サントリー入社
1988年 基礎研究所
1992年 生物医学研究所
1996年 基礎研究所
2002年 プロセス開発設計部 課長
2004年 商品技術部 課長
2007年 飲料開発設計部 課長
2010年 技術戦略推進プロジェクトチーム 課長
2011年 価値フロンティアセンター 上席研究員
2013年 サントリーグローバルイノベーションセンター イノベーション・プラットフォーム・リーダー(上席研究員)
<その他>
2007-12年 山形大学客員教授
2013年~  光産業創成大学院大学支援客員教授
2016年~  東京農業大学客員教授
<実績>
1994年 博士(農学)「ウーロン茶ポリフェノールの機能性に関する研究」
2004年 化学工学会賞技術賞「高温高圧水技術を用いた新しい麦芽加工プロセスの開発」
2004年 サントリーR&D表彰制度 MVP 1号