「研究者に、それまで取り組んできたテーマを途中で手放してもらうには、理不尽でない最後を考えなくてはなりません。どうやって成仏させるかは、すごく気をつけているんです。論文を仕上げるまでは続ける、学会発表まではやるといった具合にエンドポイントを設定します。これは私の仕事です。それに、研究テーマを成仏させるのは、悪いことではありません。次のテーマを介することで、そのテーマのどこが悪かったが見えてくるからです」

大事に置いておく

 その場にい続けていたら見られない視点が得られるようになる。

 「そうやって次、次と経験していくうちに、どこかで戻ってくるんですよ。成仏させるということは、完全に断ち切ることではく、大事に置いておくということです」

 大事に置いておくと、いつかどこかで何かとつながることがあるし、画期的な技術に発展することがある。納得の上で一度テーマを手放す行為を失敗とは呼ばない。

 中原さんは久留米出身。物心ついたころから研究者になりたいと思っていた。影響を与えたのは忍者科学隊ガッチャマンの南部博士。活躍するヒーローの後ろにいる天才的科学者だ。大学は農学部に進み、学会発表もするようになって、世の中にはたくさんの研究者がいることを知る。そして教授に言われるのだ、「お前にはサントリーが向いている」と。

 「あの頃はもっと学生に評判のいい会社がたくさんありました。サントリーに対しては、少なくとも僕は憧れてはいなかった。ただ、今振り返ると、言われたとおりではなく自分のスタイルでやりたがり、やんちゃな僕の性格を、教授はよく見ていたと思います」