「宇和島で使われている、タオル用の糸を染色する機械があるんです。大きなボビンを縦に並べて入れて、液体を入れて加熱するんですけど、その温度が200何十度だったんです。機械を作っている会社を見つけて、液体でできるんだからスチームの方がよっぽど楽ですよねという話をして、改造してもらった機械が、HHS技術につながっています」

 HHSとは、高温高圧水蒸気の略。これにより、それまでは原材料内から取り出しにくかったたとえばコクやうま味の元となる素材を、容易に取り出せるようになったという。現在この技術は、ビール『ザ・モルツ』やコーヒー『BOSS』シリーズの一部商品の製造過程で使われている。缶入りドリンクとタオルはつながっているのだ。

 「今風に言ったら、これは僕なりのオープンイノベーションです。これまでにないことをしたければ、食品の外にあるものを使うのが一番いいんです」

火をつけ、幕を引く

 火をつけるのが好きだと中原さんはいう。たとえば、学会であるテーマを発表した翌年に、追随するような研究発表が並ぶことに喜びを覚える。その時には自分自身は、一歩も二歩も先へ行っていて、発表会場は多くの聴衆で埋まっている。その姿勢は、一般的な研究者像とは重ならない。

 「イメージされている姿の方がメジャーだと思いますし、今、僕のチームにも細やかな研究のできる頼れるメンバーがいます。たまたま私はそうじゃないですし、それでは生きていけないと思ったので、ザ・研究者ではない方向へ進みました。研究には、チームを牽引する存在も必要でしょう」

 ただ、中原さんはいつでもがむしゃらに突き進み、周囲にもそれを強要するというわけではない。あえて幕を引くこと、引かせることもある。