クソニンジンという名のキク科の植物から抽出される、アルテミシニン。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したトゥ・ユウユウによって発見されたこのアルテミシニはマラリアに有効とされている。ただ、長らく大量生産できなかった。植物なので、人間の都合で、短時間で何倍にも増やすことはできないのだ。そのはずが、アメリカのグループが酵母を使ってアルテミシニンの前駆体(前物質)を作り出すことに成功した。

脇道を発見する実験も、また楽し

 「かつてはその希少な植物のゲノムがわかっていなかったですし、酵母そのものの代謝経路も分かっていませんでした。でも今や、酵母については全ゲノムが分かっていますし、代謝経路についても、すべてとは言えませんが、ほぼ分かってきているので『ここをこうしたら、こうなるんじゃない?』という予測がつくようになっています」

 分かっていなかったことが分かるようになってきたのは、1カ月かけて行っていた実験や計算が1時間で済むようになったこと、つまり、実験機器や計算機の進歩によるところが大きい。コンピューターによるシミュレーションはドライ、昔ながらの実験はウエットと呼ばれているが、ドライへの一本化はできないそうだ。

 「やはり相手は生き物なので。ここを攻めたらこう出るだろうと思っていたら、脇道をつくっていた、ということもあるので、なかなか一筋縄ではいかないんです。その脇道をつくる力も、おおらかさだと思うんですが、そういう発見が日々あるのが実験で、だから実験は楽しいんです」

 最近は研究所と言えども、商品開発に近いところの仕事を希望する人も増えているという。それはそれで大事なことだが、「基礎研究をコツコツやりたいという人が減っているんですよね」と児玉さんはどこか淋しそうでもある。

 「技術が発展して、分かるようになったこともたくさんありますが、それ以上に分からないことがあることが分かってきているので、その分からないことを少しでも分かりたいという情熱のある人が増えたらいいなと思っているんです」

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