筋肉成分と聞くとプロテインを想像する人も多いだろう。アスリートが関わっているとなるとなおさらだ。しかし、「イミダゾールペプチドは、それとは違う成分です。でも、そう思われてしまうのも当然です。研究を始めたときも、ボディビルダーのような世界をイメージされがちでした」

 タッグを組んでいた開発担当者も学生時代かなり熱心にサッカーに取り組んでいた女性であったため、いっときは、筋肉に興味があるのは一生懸命スポーツをする人くらいではないのか、という指摘も受けた。かつて競技者であったことが「そんなことを気にするのは、お前たちだけだよ」という誤解を生んでしまったのだ。

 しかし、想定していたのは競技者より高齢者。狙っていたのは競技のパフォーマンスを上げることではなく、加齢によって衰える筋肉をできるだけ元に戻すことだった。

歩行速度が上がると、死亡リスクが下がる

 では、何が加齢による筋肉の機能の低下を防ぐのか。それと同じくらい大事な問題に、これで筋肉の機能の低下を防げるとどう証明するかだ。そこで神﨑さんが着目したのが、歩く速さだった。

 1948年に、米マサチューセッツ州のフラミンガムで大規模な調査が始まった。この町に住む健康な成人を追跡調査し、血圧とコレステロール値の関係などを明らかにした。これ以降、長期間にわたる大規模な追跡調査で、健康状態と生活習慣などに関係を見出す研究は『コホート研究』と呼ばれている。

 そのコホート研究によるあるひとつの成果が、2011年に論文として発表された。タイトルは『Gait Speed and Survival in Older Adults』。ピッツバーグ大学医学部の老人医学研究所に所属する研究者によるものだ。調査の対象となったのは平均年齢73.5歳の3万4485人。平均歩行速度は秒速0.92メートル(=分速55.2メートル)だった。なお、不動産広告の徒歩○分は、分速80メートルで計算されている。論文の結論は、歩行速度が秒速0.1メートル/秒、つまり分速6メートル上がるごとに、死亡リスクは0.88倍になるというものだった。