ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏が、その重要性を強調した「基礎研究」。しかし、それに携わる人々は「研究所の奥で日々ひたすら研究に勤しんでいる」イメージで、実像になかなか触れる機会がありません。
 例えばメーカーの「商品開発」に関しても、脚光を浴びるのはヒットアイテムの商品化を手掛けた「商品企画」部門で、その基盤となった基礎研究にはなかなか光が届きません。
 このコラムでは、メーカーの研究所で働く「基礎研究の人々」にお話をうかがっていきます。なぜメーカーで基礎研究をすることを選んだのか、なぜその研究テーマを選んだのか、日々どんな研究生活をしているのか、手応えや悩みは? などなど、知られざる生態に迫ります。
 今回訪れたのはサントリーワールドリサーチセンター。2015年5月、京都府精華町に新しい研究開発拠点として作られた「基礎研究の館」です。

 飯野妙子さんには、もうだいぶ大きくなったとは言え、お子さんが3人いる。通勤には片道2時間ほどかかる。仕事との両立に悩み、会社を辞めようと思ったことはなかったのか。そう聞くと、「あんまり、深く考えないので」と答えが返ってきた。今ほど育児休暇の取得率が高くなかった時代を経験しているはずなのに、「おじいちゃん、おばあちゃんに助けられましたし、保育園に入れたことも、結果的にはお友達もたくさんできてマイナスではなかった。と、私は勝手に思っているんですけど」と、肩の力が抜けている。

 その飯野さんの研究テーマは化粧品。サントリーが『エファージュ』ブランドで化粧品分野に本格参入したのは2010年のことだ。化粧品マーケットでは今、資生堂や花王などの化粧品メーカーとして知られる企業だけでなく、写真のフィルム、うま味調味料、乳酸菌飲料など、ほかの分野で確固たる地位を築いた企業がしのぎを削る状態にある。そのなかで、サントリーの化粧品は何を売りにしているのか。

サントリーウエルネス 健康科学研究所 開発主幹 薬学博士 飯野妙子さん(写真:行友重治、以下同)

まずは集めて、比較して

 「酵母エキスですね。酵母とは、みなさんご存じのようにお酒をつくるときに欠かせないものです」

 だからサントリーには、化粧品への参入を決めるずっと前から、酵母に関する知見が蓄えられていた。が、その知見はあくまで酒造りに関わるものが中心で、それを化粧品に使うとなると、話は別だという。

 「化粧品にはどれがいいのか、という目で酵母を見てきた人はいなかったので、まずは集めて、比較して、というところから始めました。そういう意味では、道のないところに道をつくっていくような作業でしたね」