難題に取り組む松尾さんは、1997年に博士課程を終えているが、サントリーに入社したのは2007年9月。サントリーの研究者としてはちょっと変わったキャリアを積んできた。

 高校生の頃は、自分が会社員になるというイメージができずにいたという。クライブ・カッスラーが書く、『タイタニックを引き上げろ』など、ダーク・ピットという主人公が活躍する小説に夢中になっていて、その影響で海の仕事に関心を持った。

 「泳げないんですけどね」

藻類研究の天然物屋、陸上で芋を掘る

 大学へ進み海の研究をしている研究室に所属し、藻類の研究に取り組む。

 「研究テーマは二つあって、一つはケモタキソノミーという、同じ成分があれば同じ種類だね、この成分があるならこっちの種類だねと分類する研究をしていました」

 大学に残るつもりで博士課程まで進学し、そのままその大学に職を得られそうだったが「ずっとこの大学にいるのどうなのかなあ」と思い、外部の研究所で働くことにした。北海道から静岡へ。

 「全部で23くらいの企業が出資してできた半官半民の海の研究所だったんですが、自由なところでした」

 大学に残っていたのでは出会えなかったユニークな人々にも出会えたという。ちなみに、奥様ともここで知り合った。

 そこでの松尾さんの研究テーマは、大学時代も取り組んでいた藻類と微生物の共生の研究。が、その研究所がわけあって解散。そして「天然物屋を探している」と声をかけられて、静岡からここ京都へ移ってきた。

 サントリー入社当初は、大量に出るお茶がらやコーヒー滓の利用についての研究を行い、そのうち、焼酎や梅酒の味の研究にも取り組むようになった。

 「有機化学のバックボーンがあったとは言え、焼酎はそれまでそんなに飲んだことがなかったですし、どうやってつくるのか、からでした。鹿児島で芋掘りもしました。まさか陸上でできるものの研究をするようになるとは、という感じです。海からだいぶ離れましたね」

 とはいえ、現在も趣味の一つに海水魚の飼育を挙げる。一人娘は進路を決める時期に来ているが、松尾さんも奥様も理系ゆえ、娘も理系と思ってきたが迷いもあるようで、父親としては「文系の人生は教えられない」と苦悩もしている。

 研究者としては「まだ、これをやりましたとお見せできるような商品がないので、今後はちょっと自慢できるような商品をつくっていきたい」という。