コマツ、米国販売店が挑む“本土決戦”
キャタピラーにはない「売る仕掛け」 記者が行く:米国編
日経ビジネス2月15日号特集の「
コマツ再攻 『ダントツ』の先を掘れ」に連動し、「再攻」の現場を突撃取材するオンライン連載。4回目は世界建機最大手キャタピラーの牙城、米国編だ。
コマツが建機世界最大手キャタピラーの本拠地、北米で攻勢を掛ける。“本土決戦”の秘策は、建機のアフターサービスとレンタル事業。北米ではリーマンショック以降、公共工事や住宅需要の浮き沈みを懸念して、主要顧客の建設会社などが建機を「買う」から「借りる」にシフトしている。
建機の需要が伸びている分、アフターサービスの需要も高い。2つの有力代理店の取り組みからコマツの強みと弱み、ひいては日本企業が北米市場を開拓するカギが見えてきた。
米販売代理店コマツ・イクイップメント・カンパニー(KEC)のジョン・プフィステラー社長
「Why we had lost customer retention ?(なぜ、我々は顧客を取り逃がしてきたのか)」。
こう自問自答するのは、米国販売代理店コマツ・イクイップメント・カンパニー(KEC)のジョン・プフィステラー社長だ。企業にとって最も重要な顧客満足度を大きく落とした経験が今もなお、脳裏に焼き付いているからだ。
日本ではグローバル企業の旗手として礼賛されてきたコマツも、ここ北米では苦戦を強いられている。市場シェアは推計15%前後と、キャタピラーの40%に遠く及ばない。そればかりか、プフィステラー社長が懸念しているのは、「ネット・プロモーター・スコア(NPS)」と呼ばれる指標だ。
NPSは顧客満足度を示す指標で、複数の顧客が10段階で商品・サービスを再利用したいかどうかを採点。推奨すると答えた顧客の割合から批判している顧客の割合を引いた値をマイナス100%からプラス100%の間で表す。自動車大手フォード、食品大手ナビスコなど有力各社が軒並み採用し、40%が最低合格ラインとされる。20%を切ると、顧客が他社に流れるシグナルになるという。
顧客満足度、わずか34%の衝撃
そのNPCを見るとKECは2009年1月に24%とふるわず、その後上昇傾向をたどり50%台に乗せるも、2014年1月は再び34%まで低下。足元も油断はできない状況が続く。
「小売り大手コストコのNPSは80%を超えるらしいぞ。品質で負けないウチの建機がなぜここまで低いのか」。プフィステラー社長が頭を抱えていると、懸案は建機のアフターサービス、とりわけ部品在庫の不足だと分かった。
KECはコマツのグループ会社で、米西部のソルト・レイクシティーに本社を構える専売代理店。2002年に冬季オリンピックが開かれたユタ州の州都で、記者が訪れた1月中旬の気温はマイナス10度ほど。それでも北米の底堅い景気を映してか、道路や橋梁、ビルの工事は引きも切らない。顧客にとって建機が万全の状態で稼働しなければ、たちどころに工期やコストに響く。
「See your nose!(灯台下暗しだ)」。
プフィステラー社長は、顧客からの声に愕然とする。「ウチからKECまで80マイル(約130キロ)も離れているから、コマツの建機を買っても修理を頼むどころか、定期点検に来てもらうにも2時間以上もかかる」「キャタピラーはディーラーが近いし、部品も24時間以内に交換してくれる。建機本体やサービス作業の工賃は決して安くはないが、建機の稼働を落とさずに済むから結局、総合的にコストを抑えられる」。顧客の視線は想像以上に厳しかった。
「Komatsu care(コマツケア)」のロゴで彩られた超大型トラック。工具一式や部品、油脂類が満載されており、定期点検など顧客サービスの移動式拠点となる
KECが一念発起して導入したのが99台の超大型トラックだ。ユタ州を拠点に移動式のサービスカーとして走り回る。「Komatsu care(コマツケア)」のロゴで彩られたパネルには、工具一式や部品、油脂類が満載されている。最新の排ガス規制をクリアした新車を主な対象に、新車から2000時間の稼働まで4~5回ほどの点検を行うサービスも盛り込んだ。直近では対象となる機種の97%が利用するサービスの柱に成長した。自動車が走行距離ごとに点検・修理を行うように、建機は稼働時間で管理する。
プフィステラー社長は、こう振り返る。「これまで私たちは顧客が電話やメールでアフターサービスを求めるのを受けるだけだった。訪問もせいぜい1年に2回。これからはコマツが客先に定期的に出向いていく『攻め』に変えなければ勝ち残れない」。
攻めのアフターサービスには、コマツと販売代理店の関係性も大きい。コマツとキャタピラーは、伝統的に販売代理店とメーカーの関係性に違いがみられる。キャタピラーは子会社の日本法人を除くと各国・地域ごとに独立した販売代理店に販売価格の設定からアフターサービスまでほぼ一任している。各代理店の独立性を尊重するキャタピラーに対し、コマツは各代理店に直接、在庫管理やアフターサービスを働きかけるなど、メーカーと協業を重視しているからだ。
コマツケアも当初は建機の新車販売価格に含まれており、販売代理店は値引き販売をすると、結果としてアフターサービスがおろそかになりがちだった。直近では代理店がコマツケアに要した工賃や部品代をコマツに事後請求できるように改めた。無償サービスの対象となる2000時間を超えると、有償サービスの契約を推奨する。その契約率は足元で40%だ。今後は、その底上げが課題となる。
KECの本社では顧客から建機を預かって分解整備する「リビルト」「リマン」と呼ばれるサービスも軌道に乗り始めた。
アフターサービス拡充、真の狙い
アフターサービスは顧客が建機をフル稼働できるメリットにとどまらない。米国コマツ(KAC)の十川満洋サービス担当副社長は「建機の稼働が5000時間前後に差し掛かった時が腕の見せ所です」と打ち明ける。北米では年800~1000時間の稼働が平均的とされるため、十川氏が狙いを定めるのは新車から5年前後が経過した建機だ。
コマツケアで点検・整備が行き届いている建機は、いわゆる「素性」がはっきりしているので中古建機として高く売れる。十川氏は「顧客は下取り価格が高くなり、代理店も中古建機ビジネスを新たな収益源にできる。メーカーは中古建機価格が高値で安定することで、ブランドを一層高められる。顧客、代理店、メーカーのゴールデン・トライアングルが完成する」と意気込む。
中古ショベルは1500万円、新車とほぼ同額に
では、実際に中古建機はいくらで売られているのだろうか。自動車なら「トヨタ・プリウスの人気グレードは250万円前後、ベンツSクラスなら1000万円台から」といった「相場観」があるが、一般消費者になじみの薄い建機となれば価格も読みにくい。記者は、市場価格をつかもうとコマツ以外の建機も扱う独立系販売代理店に足を運んだ。
コマツの建機も扱う独立系販売代理店、ブラムコ社のマイク・パラディス上級副社長
向かったのはケンタッキー州、ルイビルにあるブラムコ社だ。1908年設立の老舗で、1980年ごろからコマツを扱っている。マイク・パラディス上級副社長は「2年ほど前から建機のレンタルとアフターサービス、さらに中古建機販売に力を入れている」と話し、そしてこう付け加える。「ウチもキャタピラーから代理店の誘いを何度も受けたが、コマツと商慣習の違いは大きい。どちらが良い悪いではなく、ビジネスモデルの違いだ」。
パラディス上級副社長は詳細な市場価格こそ明言は避けたが、説明資料によると、新車から1年間、1000時間ほどレンタルで使われた13トン級の小型油圧ショベル(注=作業装置を除く機体質量を示す。油圧ショベルでは最も売れ筋の中型機が20トン級、13トン級は都市部の道路舗装などに使われる小型機種)は13万2000ドル(約1518万円)だった。新車は14万ドル(約1610万円)前後なので、値落ち率は6%にとどまる。
「ウチのレンタル建機は400台前後だが、年間で最も工事の増える夏場には500台前後を用意する」(パラディス社長)。
しかし、こうした代理店の取り組みが今後も成功するとは限らない。米国は底堅い景気を背景に昨年末、利上げに踏み切ったものの、株価は乱高下が続いている。原油価格は節目の1バレル30ドルを割り込み、建機の上得意先であるエネルギー関連企業は投資案件の先送り・凍結を相次いで決定している。
だからこそ、建機業界も新車販売という「フロー」から、アフターサービスやレンタルなど「ストック」に商売の軸足を移すことで、新たな需要を掘り起こしていくしかない。「全米に32ある代理店でどこまでできるか、白地図を塗りつぶすくらいの気持ちで(キャタピラーと)戦いますよ」。北米取材で、開口一番こう切り出したのは米国コマツの森山雅之社長だ。その先駆者となる2つの代理店の取り組みこそ、真価が問われる局面に入る。それは日本企業、とりわけ製造業が今後、北米で直面する課題に他ならない。
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