もっとも、みどり会への拡大には疑問も浮かぶ。記者はこれまで、様々な企業の「つながる工場」に向けた取り組みを取材してきた。そのなかで、「取引先に広げようとすると、総論賛成、各論反対になってしまう」という意見を何度も聞いた。
理由は明白。たとえ重要な取引先とはいえ、他社から自社工場の様子をつぶさに見られることを、喜ぶ会社はほとんどないからだ。栗山所長は「信頼関係が成功の秘訣」と言うが、それだけだろうか。
そこで、みどり会の1社でトランスミッション部品などを作っている長津工業の小林保彦執行役員にこっそりと聞いてみた。
「最初はめちゃくちゃ抵抗がありましたよ」
記者:コマツとつながるのは大歓迎だったんですか?
小林執行役員:そりゃ、最初はめちゃくちゃ抵抗がありましたよ。
記者:信頼しきれないからですか?
小林執行役員:コマツさんとは50年以上の付き合いで信頼はあるけど、それでもやっぱり抵抗はあった。
記者:では、なぜ?
それは、コマツの担当者にせがまれて「1台だけ」と試した機械で、如実に効果が現れたからだった。
長津工業では長らく、ブルドーザーに組み込む「モーターケース」と呼ぶ部品の加工時間が短くならないことを悩んでいた。「もう手を尽くした」と諦めかけていた昨年5月、コマツからこのタブレットを渡され、モーターケースの加工機に取り付けた。
すると、今までは把握しきれていなかった工具への負荷のかかり方や加工スピードの変化が、波形のグラフで表示されたのだ。「大して負荷がかかっていない。ここはもっと早く(工具を)送れる」と機械の設定を変更すると、全部で100分かかっていた加工時間はあっという間に1割近く縮んだ。その経験から、他の工程でも効果が出るかもしれないと、「前向きに考え始めた」(小林執行役員)という。

長津工業にとって受け入れやすかったのが、タブレットをコマツからタダで借りられることだった。自社でシステム投資の負担をせずに、10年近く前に購入した工作機械から詳細な情報を得られるようになり、従来は難しかった複数台の機械の一括管理も、楽にできるようになった。使い勝手に対して意見はするが、アプリの開発・改良にかかる費用はすべて、コマツ持ちだ。
「抵抗が全くなくなったかと聞かれるとそうじゃないけど、メリットを十分に感じている」と小林執行役員は言う。長津工業は現在、6台の工作機械にタブレットをつけ、他社向けの製品を作っている時以外は、稼働状況をコマツと共有しているそうだ。
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