「良いところ探し」と「違うところ探し」

 「日本のメーカーでインハウスデザイナーをしている人なら、独立しても十分にやっていけるだけの能力はあると思う」と西澤氏。ただし、独立する際に、戦略的にパーソナルブランディングを考えることが重要になる。他人と比べて良いところと違うところを分析し、その2つが重なるところを「フォーカスポイント」として打ち出すことだ。

 まずは「良いところ探し」。独立しようと思い至るからには、自分と、自分が提供するサービスには良いところがたくさんあるはずだ。それらを列挙していく。このとき、自分の専門領域について素人同然のお客が、価値を感じてくれるかどうか、という視点が必要だ。自分では「良いところ」だと思っても、仕事を発注してくれるお客がそこに価値を見出さなければ意味がないからだ。

 次に、「違うところ探し」。すでに数多く存在する競合相手を踏まえながら、自分がほかと違う点を考える。そして、「良いところ探し」と「違うところ探し」で抽出したポイントで重なる部分を見る。これこそが、自分をブランディングするうえで最も大切な「フォーカスポイント」になる、というわけだ。

 西澤氏は学生時代からブランディングデザインを志したが、当時これを専門に仕事をしているデザイン事務所は見当たらず、自分で独立までの道筋を考えるしかなかった。考えあぐねた結果、まずは一度、ものづくり全体に関わってみたいと思い、メーカーへの就職を目指すことにしたという。

 ものづくりの分野で自社の技術力が十分にあり、国際的な競争力を持ち、かつ企画からデザイン、さらには販売まで一貫して携わることができる会社を探し、東芝に決めた。その東芝で、西澤氏は自社の製品に関わる展示会や販促物などのデザインの企画、見積もり作成、外注への依頼、ディレクションなど一連の流れを経験することになる。

 その中で、独立後に役立ったのが意外にも「小さな仕事」だったと言う。例えば、自社製品の販促物の制作などだ。

 プロダクトデザインという本来の仕事に比べれば枝葉の仕事ではあるが、西澤氏は積極的に行うようにしていたという。企画からスケジューリング、見積もり、デザイン、発注までの一連の仕事の流れを任せてもらえたことで、「仕事ってこうして回していくんだ」ということを新人ながら体感できたことは非常に大きかった。

 独立してからは、営業活動を一切行わず、東芝時代から講師を務めていた大学の教授や友人からの紹介でクラフトビール「COEDO」と抹茶カフェ「nana’s green tea」と出会い、ブランディングデザインを開始した。これから独立してブランディングデザインを手がけていこうと考えるデザイナーに対し、西澤氏はこうアドバイスする。

埼玉県川越市のプレミアムクラフトビール「COEDO」。パッケージデザインは「あふれる日本の色」をテーマに展開。(写真=谷本裕志)

 「ブランディングデザインはリリースするまでにタイムラグがあるので、キャッシュフローの計画は綿密に立てた方がいい」。実際、nana’s green teaとCOEDOがリリースするまでそれぞれ2年~3年かかったため、それまでの資金繰りには苦労したという。

 「独立には高い『壁』がある。最大の壁はお金の心配だと思うが、壁を越える勇気を持つには、独立して成功したデザイナーをベンチマークすることと、何でも聞けるメンターを持つこと」とアドバイスする。

 先輩が特集されている雑誌を読み、また実際に話を聞くことは「自分もいつかはこんな風に独立して仕事をしたい」というモチベーションを高める意味でも良い機会だったという。

[日経デザイン 2016年10月号の記事を再構成]

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