普及すると何が起きるのか。課題は?

ホンダが自動運転で一番こだわっているのはどのようなポイントでしょうか。

杉本:「技術は人のためにある」というところでしょうか。それはホンダ創業者の本田宗一郎が掲げていたもので、今でも変わらない理念です。自動運転技術はあくまで手段です。人や社会にどういう価値を提供するのかにこだわり続けて、心から信頼できて、お年寄りや初心者にとっても少しでも使いやすい自動運転を実現する。人を中心に考えて、どこまで人にやさしくできるのか。そこにこだわり続けたいと思っています。

 クルマに乗ることが人間の能力を拡大してきました。高齢者にもいつまでもモビリティーの自由を持ってほしい。それによっていろいろな経験をしてもらいたい。

自動運転ではこれまでのように完成車メーカーが根幹的な技術を握るのではなく、半導体やソフトウエア会社など頭脳を握る会社が主導権を持つような印象があります。

杉本:外部が(主導権を)握るみたいなことは言いにくいのですが、確かにAI技術ではITの巨人や当社が協業を始めたセンスタイムのような新しい企業が強い部分があります。彼らは自動運転のプラットフォームを提供したいと思っています。

 ただ彼らができるところ、できないところがどうしてもあります。彼らはIT技術に強いのですが、クルマは信頼性がすごく大事です。100万台のクルマを造っても、致命的な故障は起こさない。これまで自動車メーカーはそのような信頼性を築き上げてきました。IT企業が全部を造れるわけではなく、必ず分業することになります。ITのプラットフォームだけではクルマは実現できない。最終的なハードウエアでは自動車メーカーが一緒になって取り組まないとできないはずです。

 とりわけホンダは個人向けの自動運転車で強みを出したい。クルマがどのような動きをすればドライバーは安心できるのか。ホンダなら非常に乗り心地が良く、質のいい自動運転を提供できるという自信を持っています。

自動運転車が普及すると移動の自由が広がるといったメリットが語られることが多いのですが、そこに落とし穴はないのでしょうか。

杉本:自動運転で(ライドシェアのような)モビリティー・アズ・ア・サービスが普及すると、移動コストが下がって、物流や人の動きの自由度は上がるでしょう。しかし社会としてそれを生かすためには、スマートシティのような大きなデザインを描くことが必要です。電車やバスは残るでしょうが、それらを補完する形でモビリティー・アズ・ア・サービスが広がるはずです。

 自動運転には、技術な課題がまだまだあります。今後は自動運転のクルマとそうでないクルマが混在する状況が生まれます。例えば、首都高の実証実験で痛感したのは、自動運転車が制限速度をきちんと守ると交通の流れが遅くなること。後ろが数珠つなぎになり、自動運転車があおられてしまうのです。

 自動運転車が増えると、かえって渋滞を引き起こしてしまうという懸念があります。自動運転車の普及には時間がかかり、交通事情はなかなか一朝一夕には変わりません。もちろん自動運転車が主流になれば、道路設計なども変わるでしょう。そうなると自動運転が交通に与えるインパクトはより大きくなります。

 もちろん自動運転技術の発展で明らかに事故は減るはずです。我々もそれを期待しています。10~20年先に交通事故が劇的に減る時代はきっと実現するでしょう。

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