クルマ好きが認めるフツ―

Jさん:私はそもそも、若い人でも年配の人でも、自動車に興味がない人に興味を持たせるというのは大変じゃないかと思うんです。自動運転で便利になったとして、いままで興味がなかった人がこぞってクルマ好きになるかと言えば疑問です。

野地:ご指摘の通り、自動車会社にとっては「クルマが好きだ」という人がやっぱり一番のお客様だと思います。ここにはあまりいないし、僕の周りにも少ないけれど(笑)。

 クルマが好きな人は5台、10台と買う。この前、お話をうかがったクレイジーケンバンドの横山剣さんはクルマ好きで有名ですけど、これまで40台近くのクルマに乗っているそうです。

 洋服が好きな人はものすごくいろいろな洋服を買うけれど、そうじゃない人はすべてユニクロでOK。ヘビーユーザーとそれ以外に二分化されているのは、本もそうで、本好きの人はめちゃくちゃ読む一方で、まったく読まない人もいる。こうなると、本が好きな人にちゃんと買ってもらえる本を作るというのが作家にとっても大事になる…。ちょっと話がずれましたけど(笑)。

 横山剣さんの話を聞いていて、なるほどと思ったのは、クルマ好きの人はレアなクルマばかり欲しがるのかといえば、そうじゃないんだなと。とてもノーマルなクルマでも、乗り心地が良くて、しっかり作られているものはちゃんとその良さを理解して、普段使いはそうしたクルマに乗っているんです。だから、クルマ好きが認めるフツーのクルマというのが有望なのかもしれない。

インスタ映えの楽しみ

Kさん:日本の若い人がクルマに乗らない、クルマ好きが減っているといったお話でしたが、アメリカやヨーロッパではどうなのでしょう?

野地:僕もこの本を書いているとき、そのあたりを知りたいなと思って資料を調べたりしながら、トヨタの世界各国の人に、若い人がクルマに乗るのかどうか聞いてもらったんです。すると、アメリカのニューヨークとか都市部は、やはり若い人はクルマに乗らなくなっていて。ヨーロッパも同様で、都市で生活している人たちはもうクルマを持とうと思っていない人が増えているということでした。街づくりでもそういう方向で進めている都市が増えていますしね。

Jさん:日本の場合は公共交通機関が非常に整備されていますが、これは世界的に見たら珍しい環境、いわばガラパゴス的な環境で、例えばアフリカだったら、最貧国と言われるようなところでも、クルマに頼るしかない。工場などでクルマがないとモノが運べないし、遠くに移動するにもクルマがないと困るから、安くて丈夫なトヨタの中古車がガンガン走っています。

 クルマとは何か、日本の若い人がクルマに乗らないのはなぜか、といったことより、そうしたアフリカ諸国や中国やインドなど需要が高まっているところで積極的にビジネスを展開していったほうが、企業としては有望なのではないかと思うのですが。

野地:新市場開拓というのは常に求められるところですね。中国はこの間、取材に行ってきたのですが、確かに売れていました。今はまだ富裕層の人しか買えないけれど、これからどんどんクルマが増えて、街にあふれてきたら、一番困るのは駐車場だと言ってましたね。便利なところに停めるには裏金がいるとか。またそこで新しいビジネスなどが出てきそうです。

 そして、クルマを買った人たちはどんな風に乗っているんですかと聞いたんです。そうしたら、今は「写真」だと。どこかドライブに行ったら、一番景色がいいところを探して、クルマと風景と自分が入った写真を撮る。いわゆるインスタ映えする一枚を撮るんだと。

 富裕層がステータスとしてまず買うんだけれど、どう使いこなせばいいのか、そうしたセンスはまだ磨かれていない。そんな中では、使いこなし方、楽しみ方までちゃんと教えるというのが、モノを売るのには必要なんだと改めて思います。

 今日はどうもありがとうございました。ユーザー、というかユーザーではない人の声、今後の取材の参考にしていきたいと思います。

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