2018年7月、名古屋で行われた日経ビジネス特別セミナー『現場からみた「トヨタ生産方式」と伝説の「オヤジ」たち』。

 中学卒業後、15歳で入社。以来、現場一筋55年、トヨタ初のたたき上げ副社長となった河合満氏と、『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』を上梓したノンフィクション作家・野地秩嘉氏との対談が行われた。受講者を募集するや即満席となった、この人気セミナーの模様をお届けする。

 現場から見た、トヨタ生産方式の真の姿とは、そしてニッポンのモノ作りの神髄とは――。その後編。

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ITを、現場たたき上げ副社長はどうみるのか

河合:僕はITが嫌いだと思われてて、そういう取材の申し込みが来たりもするんですけど、嫌いというわけじゃありません。でも僕は技能系ですから、技能主体に考える。そうすると技術の進歩には手作業の向上が欠かせないんです。

 よく習字をロボットに覚えさせた場合を例に出すんですけど、習字がうまいやつの技能をロボットに移植すると、当然うまい字を書きます。これが下手なやつの技能を移植すると、当然ロボットの字も下手になる。教える人間がやれるから、ロボットに移せるんであって、うまい人がうまい感覚をロボットに教えれば、もっとうまくなるんです。

 溶接コンクールで全国第2位になった社員がいるんですが、その技術をロボットに教えてやらせても、やっぱりロボットは彼には及ばないんです。でも1位の人間がロボットに教えたら、もっとうまくなるかもしれないですよね。自働化したら終わり、じゃないんです。

 4台のロボットで作るものを、3台で出来ないか、2台で出来ないかとロボットを減らすために、もっといい仕事をロボットに教えるのも人間です。そうしたら新しいラインでは、ロボット2台からスタートできるかもしれない。

 不良品を無くす、生産性を倍にするには、自働化を常に進歩させなければならないし、それには技能をもっと高めて、うまい人がそれをロボットに移植していく、そういうスパイラルを作っていかなければならないんです。

 だから全工程を手作業でやるラインを、溶接部門と鍛造部門などあらゆる部門で作らせた。そうしたら、一人一人がいいものを作るんです。また横着なやつが、いかに速く仕上げてさぼるかを考えて、いい改善案を出す。僕らだって1000個作れって言われたら、いかに速く1000個作って休むか、それに知恵を絞ってたわけ。3回、部品とりにいくのが面倒だから、1回で済まないかとか、改善はそれの積み重ねだからね。

 要するにITだって、あくまでも人の技能が基本にあるんです。

河合満(かわい・みつる)氏
トヨタ自動車副社長
1948年、愛知県生まれ。66年、トヨタ技能者養成所卒業後、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。鍛造部で腕を磨き、2005年、本社工場鍛造部部長。08年、本社工場副工場長。13年に技監就任の後、専務役員などを歴任し、17年より現職